My Little Love

1時間SS参加しましたー!

今回のテーマは「チョコレート」「ワイン」「手作り」「高級」。
「チョコレート」「ワイン」「手作り」を選びました。
バレンタインということで、リア充なはるまこのお話ですw







私、天海春香は事務所のソファに腰掛けてある人物を待っていた。
2月14日、バレンタインデー。
恋人たちが愛を囁き、片思いの人々が胸を高鳴らせる日。
私は何度も壁に掛けられた時計を見ながらそわそわしていた。
座っているからまだマシだ。
ソファがなかったら私は今頃オリの中のクマみたいにあちこち徘徊していただろうから。
目的の相手が来る時間は9時と聞いていたから15分前に事務所についてスタンバイしている。
何もしていないからか期待しているからか、時計の針は一向に進んでくれない。
膝の上には真っ赤な袋。
中身は昨日作ったトリュフチョコが箱詰めされて入っている。
学校や同僚のみんなのために大量生産したチョコ。
でも、これだけは他の人とは違う包装。
特別な人のための特別な袋。
恥ずかしくてカードとかは書けなかったけど。
受け取ってくれるかな…。



「おはよーございまーす」
待ち侘びていた声が耳に届く。
来たっ!!
私は飛び上がるようにソファから身を起こした。
チョコは後ろ手に隠したままで、いち早く事務所の扉を開けて迎え入れる。
そこにいたのは我が765プロの王子役。
菊地真だ。
逸る鼓動を諌めつつ私はいつも通りの声を出す。
「おはよー真。…うわっどうしたのその紙袋」
真の手には大きな紙袋。
そしてそれを埋め尽くすのは様々な色形のチョコの数々。
「おはよう春香。事務所の前でファンの女の子たちに待ち伏せされててさ…
次から次へと渡されてこの有様だよ」
苦笑しつつ、紙袋を持ち直す真。
テーブルの上にそれを置くとズシリといかにも重そうな音が鳴った。
一体いくら入ってるんだろう…。
羨ましいような可哀そうなような。
「うわーブランドものいっぱいあるねえ」
袋から覗いてるだけでも、モロゾフとかゴディバとか、誰でも知っているブランドの高級チョコレートが目に付く。
こういうの、私は買えないなあ…お金とか色んな関係で。
そうだね、と真がチョコを整理しつつ言う。
「やっぱりこういうの貰うと応援されてるなって感じるなあ」
真の言葉がチクリと私の胸を刺す。
「そう、だね」
真は数えきれないほど貰っている。
しかも美味しくて高級なものばかり。
…私の作った地味なチョコなんて、欲しいわけないよね。
ぎゅ、と箱を持つ手に力がこもる。




「ねえ春香」
不意に真が私と視線を交わす。
「ん?何?」
「催促してるみたいで悪いけどさ」
そう前置きしてから聞いた。
「春香はチョコくれるの?」
脳の思考回路が途切れた。
そんな感覚がした。
言い換えるとすれば、虚を突かれた。
「え……?」
私が事態を呑み込めないまま、歯切れ悪く真は続ける。
心なしか、顔が赤いような…。
「いや…ボクとしては春香のチョコが欲しいなって」
「え、あの、それって」
「あ、無いならいいんだよ。ごめんね変なこと言って」
反応が鈍い私を見て、真は用意していないと思ったらしい。
背を向けて去ろうとする。
――待って!!
気づけば真の服の袖をつかんでいた。
驚いた様子でこっちを振り返る真。
手が小刻みに震える。
渡さなきゃ。
チャンスは今しかない。
「…はいっ」
勢いよくチョコを持ってる右手を差し出した。
「あ、これ」
「き、昨日作ったんだ。上手くできてるといいんだけど」
あ、ちょっと声裏返った。
何やってるんだろうな私。
とてつもなく恥ずかしいよ。
でも後悔したくない。
真の手が伸びる。
繊細な動きでチョコを受け取ってくれた。
「ありがとう、春香。凄く嬉しいよ」
いつもの笑顔と声で。
それだけでいいんだよ、真。
「…ううん。どういたしまして」



その後、真は大事そうに私の作ったトリュフチョコを食べていた。
そう言えば真からのチョコは貰ってない。
ホワイトデーにくれるように、それとなく匂わせておこうかな…?