チョコよりも大切なもの

長らく放置していてすみません……!
というか見てくれている方はいるのだろうか;
ともかく、バレンタイン話です(もう過ぎてるけど)
ちょっとだけエロいテイストのあずたか。
続きからどうぞ









どうしてこうなってしまったのだろう、とあずさは思考を巡らす。
しかし今この場では逃避でしかなく、意識は一瞬にして現実へと引き戻される。
背後は壁。
左右には両腕。
そして眼前には貴音の体。
貴音の顔には微笑が浮かぶ。
だが普段のそれよりも妖しさがにじみ出ている。
目が座り頬は紅潮していた。
「うふ、ふふ」
唇から声が漏れ出る。
声色は何一つ変わっていないはずなのに、あずさには空恐ろしいものに聞こえた。
ちらり、と横目でテーブルを確認する。
置いてあったチョコレートの箱がいつの間にか開封されている。
今日はバレンタインデーだからと、楽屋に小鳥が持ってきたチョコレートボンボン。
開封だったのでまさか何か異物が入っているとは思わないが、だとするとこの貴音の異変はアルコールのせいなのだろうか。
「(そう言えば、お酒の匂いがするような……)」
確認しようとした瞬間、ずいっと貴音の顔が迫ってきた。
「あずさ」
「た、貴音ちゃ、んふっ」
制止の声をかける間もなく口を塞がれた。
ほんのりとカカオの香りが鼻へと抜ける。
いい匂いだな、とぼんやりと思っていると器用に貴音の舌が入ってきた。
頭を引こうにも貴音の手が回されて身動きができない。
甘い拷問に、あずさはただ耐えるしかない。
あずさの舌が押さえつけられたかと思うと、下顎を掠めるようにすくい取られた。
そのまま蛇の如く絡みつき貴音の口内へと導かれる。
とても酔っているとは思えない舌技に体中の力が抜けていく。
もしかしたら平常時よりも激しいのではないだろうか。
立っていたら間違いなく腰が抜けていた。
あずさの唾液が溢れ、畳の上に雫を落とした。
「ふ、ん……ちゅ」
「はぅ、あ、んぁ……ん、ぅん」
収録が終わったとはいえ、楽屋でこんなことをしているだなんて、誰かに知られたら……。
あずさの顔が羞恥で熱くなる。
唇と舌の感覚がぼやけてきた頃、不意に貴音の顔が遠ざかった。
ちゅ、と音を立てたキスを残して。
「あずさはちょこれいとよりも美味です」
言いながら、あずさの唾液の線を指で拭い取る。
ブラウスに手をかけられてあずさは我に返った。
咄嗟に手首を掴んだあずさに、貴音はにこりと微笑みかける。
「もっと下さいませ」
「ふあっ」
未だ力の戻らない手では到底抑えきれず、貴音の手の侵入を許してしまった。
「だ、めっ……」
唐突に貴音の動きが止まった。
「本当に駄目なのですか?」
その声に見上げてみると、貴音がまっすぐにこちらを見ていた。
心なしか表情がはっきりしている。
「ばれんたいんでーというのは、好きな方に想いを伝える日だと聞き及んでおります。わたくしは貴女様に愛を受け取って欲しいのです」
「貴音ちゃん……」
思えば、ここのところ人気が上がってきて仕事が忙しくなり、ゆっくりと二人で話す機会がなかった。
貴音はただ日頃の感謝や愛情を表現したいだけなのだろう。
やり方が少々ズレているのは、彼女らしいといえばらしい。
申し訳なさからか、目を伏せる貴音。
「わたくしは、あずさを……愛し、て」
こてん。
貴音の頭があずさの肩に寄りかかる。
「あ、あら〜?」
顔を覗き込むと、しっかりと瞼が閉じられ可愛らしい寝息が聞こえてくる。
なるほど、眠ってしまったらしい。
これもまたアルコールの影響か。
助かったとあずさは安堵する。
ひとまず不安定な体勢から貴音の膝枕となる。
普段は大人びている貴音も、寝顔は年相応である。
前髪を指で弄るとくすぐったそうに眉をひそめた。
あずさは自分のバッグを引き寄せる。
出てきたのは、リボンをあしたらったチョコレートボックス。
実は貴音に内緒でこっそりとチョコを作ってきたのだ。
どんな顔をするのか、見てみたくて。
バレンタインデーは年に一度。
一番思いが伝わる日。
それは間違いじゃない。
でも、あずさはこうも思う。
「バレンタインデーじゃなくても、私は貴音ちゃんのことが大好きよ」
バレンタインだから形に表すけれど、いつだって貴音を愛している。
それはきっと彼女も同じはずだから。
頬に軽く口付ける。
ふと貴音の表情が和らいだ気がした。





チョコよりも確かな愛情表現は、二人の間だけにある。