ノエルに乾杯

1時間SSに参加しましたー。

今回のテーマは「アイドル」「シンデレラ」「クリスマス」「最終」。
クリスマスを選びました。
ひびまこですー。
イブに何とか間に合いました!









「はー、今日は大変だったねえ、色々と」
「そうだなー。テレビの収録の後に雪歩の誕生日会だからな」
炬燵にこもりながら、響と真はぼやきあっていた。
さすがにケーキは食べ飽きたのか、二人の手にはコーヒーが握られている。


今日は12月24日。
さらに言うと、24日の午後11時過ぎなのでもう間もなく25日になる。


朝から夕方まで生放送の特番に出演し、それが終わったら大急ぎで事務所に帰ってクリスマス会兼雪歩の誕生日会に出席。
夜まで騒いだ挙句、響の自宅に二人して雪崩れ込んだのである。
体力に自信のある真と響でも相当こたえたようだ。


うなだれるように炬燵に体を預け、ぼうっとする。
「アイドルだから仕方ないけどさ、もっとロマンチックなイブを過ごしたかったなー」
コーヒーを啜りながら真が遠くを見るように呟く。
内面は765プロの誰よりも乙女な真はきっとクリスマスもキラキラ光るような一日を過ごしたかったのだろう。
「諦めるさー。芸能人っていうのは、みんなが休んでる時こそ休めないものなんだから」
「うう」
響の至極まっとうな発言に真は撃沈する。
いや、真自身も本当は分かっていたはずだ。
アイドルでいると決めた以上、人並みの生活は送れない。
周囲が楽しそうにしているのを横目で見ながら仕事をする。
そういう仕事。
「でもいざ売れてみると、やっぱりちょっと寂しいんだよね」
手元のカップに目を落とす。
少し冷めてきた琥珀色の液体には自分の冴えない顔が映っていた。
やっぱり自分にはまだアイドルの自覚が足りていないのだろうか。


「はあ…仕方がないなー」
黙っていた響がそう言って炬燵から立ち上がった。
「響?」
「ちょっと待ってて」
真は不可解に思いつつも、炬燵から出るのも億劫なのでただじっと待っていた。
キッチンのほうに向かった響はすぐに戻ってきた。
手には二つのグラスと、ワインよりも少し小さめの瓶が握られていた。
瓶の中身は薄いトパーズのような色。
「ねえ響、それってもしかしてシャンパン?」
真が聞くと響は首を横に振った。
「違うぞー。これはシャンメリー。大体自分も真も未成年だろ」
それもそうか、と真は独り納得する。
炬燵に入り直して響はグラスを手渡す。
「せっかくのクリスマスだし買っておいたんだ。シャンパングラスがないのが残念だけど」
「へえ〜響もやるじゃん」
「そうだろ!」
真の褒め言葉に響はニッと破顔した。
響の酌で二つのグラスにシャンメリーが注がれていく。
泡を立てながら注がれる様はさながら黄金色の海だ。
水面が平等になったところで静かに横に置く。
「それじゃ、乾杯!」
「かんぱーい」
コツン、と小気味よい音がしてグラスが触れ合う。
一口含むと白ブドウの爽やかさが咥内に広がった。
「美味しい」
思わず真が口に出すと響がそうだろうと言うように笑った。
「ささやかだけど、クリスマスらしいことできただろ?」
響の細やかな心遣いが、今は嬉しかった。
「うん」
こうして二人は、イブと当日の間の数時間を、静かに過ごしたのだった。






May your holidays be happy days filled with love.