いっぱい食べるキミが好き

あずたかでほのぼのしたのを書いてみたいなーと思いつきました。
やっぱり寒い時にはイチャイチャに限りますね〜w
でも百合のようで百合ではないのです。









街の木々が色づき、いよいよ冬めいてきたある日のこと。
事務所で二人のアイドルが会話をしていた。
「貴音ちゃん、今夜私の家に来ない?」
あずさの誘いに貴音は不可解そうに首を傾げた。
ユニットの仲を深めるという意味合いで彼女のマンションには何度か行ったことがあるが、
今日は特に話しあうことなどないはずだ。
いや、目的が無くてもあずさの家に行けるのなら嬉しいことには変わりないのだが。
あずさは貴音の視線を受けてにっこりと微笑んだ。
「そろそろ寒くなって来たから、お鍋でもしようかと思うんだけど、
一人じゃ寂しいから貴音ちゃんもどうかなって」
貴音の瞳の奥が、煌めいた。
「勿論です。失礼ながらお邪魔いたします」
「そう言ってくれると思ったわ〜」
ふふっとあずさが声を上げる。
貴音は自他共に認める健啖家なのだ。
食べ物の話題を出して食いつかないわけがない。



「どうぞ上がって〜」
「失礼いたします」
律儀にお辞儀をしてから、貴音はあずさの自宅の敷居を跨いだ。
ナチュラルな配色、綺麗に片づけられた室内アクセントにそっと置いてある観葉植物。
女性らしい部屋のお手本だ。
「相変わらず美しい部屋ですね」
貴音の言葉にあずさは困ったように眉を下げた。
照れた時の癖だ。
「そうかしら?でも嬉しいわ」
貴音はあずさに促されてキッチンカウンターの傍の食卓テーブルにつく。
あずさはキッチンから何かを持ってきた。
大きさはA3の紙くらい、銀色を基調とした配色で中央部に小さなコンロが付いている。
「あの、あずさ。それは一体…」
「ガスコンロよ。見たことないかしら?」
「いいえ」
貴音が否定すると、あずさはあらあらと言いながらもどこか嬉しそうに説明を始めた。
「ほら、ここに扉があるでしょう?この中にガスボンベって言う燃料を入れて、ここの栓を…」
言いながらボンベを設置し、栓を捻るあずさ。
カチッという軽快な音がして青い炎が点った。
「なんと…これは面妖な」
「そうよねえ。考えてみたら不思議ね」
じーっと見つめ続ける貴音。
「貴音ちゃん、そろそろお鍋の準備をしないと」
あずさの言葉に弾かれたように顔を上げる。
「そうでしたね。うっかり忘れるところでした…」
「もうお鍋はやめておく?」
「それはなりません!」
その剣幕にあずさはクスクスと声を立てて笑ってしまった。
急に恥ずかしくなったのか、貴音はあずさから視線を逸らした。
「は、早く始めましょう」
「はいはい」
実に楽しそうに、あずさは準備に取りかかった。





白い湯気。
ぐつぐつと奏でられるリズム。
小刻みに踊る具材たち。
冬の風物詩、鶏鍋である。
そして鍋の上を踊る一膳の箸。
貴音のそれであることは最早言うまでもない。
野菜も肉団子も鶏も区別なく箸で掬って取り皿へと落とす。
息つく間もなくそれらは口の中へと消えていく。
延々とこの繰り返しだ。
一つの映像を繰り返して見ているような正確さだった。
豪快なようで、気品は欠片も失われていないのが凄い。
「貴音ちゃん、いつもよく食べるわね〜」
あずさが呟くと、貴音は慌てて口の中の物を呑み干した。
「す、すみません。家の主より先に食べ進めるなど」
「いいのよ、どんどん食べてね。まだ材料はあるから」
「はい…ではありがたく頂きます」
貴音は嬉しそうに笑顔を見せた。
つられてあずさもはにかむ。





結局貴音は、用意していた具材を全て平らげてしまった。
「ふぅ…美味でございました」
「お粗末さまでした〜」
あずさもいつもよりは食べた方だとは思うのだが貴音には敵わない。
満足そうに
「貴音ちゃんの食べてる姿を見ると、何だかこっちまで幸せになるわね」
「?そうでしょうか」
「ええ、そうよ。いっぱい食べる女の子って見ていて微笑ましいもの」
人間の三大欲求である食欲。
それを満たさんと頬張る姿は、愛らしく微笑ましい。
顔には幸福感に溢れている。
見ている方が、食べるよりも幸せになってしまう。
本人は分かっていないのだろうが、たくさん食べるところも貴音の魅力の一つ。
あずさも、もっともっと貴音の食べる姿が見たかった。
だから口を開く。
「また夕飯に誘ってもいい?」
貴音の返事は勿論
「ええ、是非」





「そうだ、貴音ちゃん。煮込みラーメンの麺があるのだけど」
「煮込みらぁめん…ですか」
「あら、目つきが変わったわ〜」
「早く食べましょう!善は急げです」
「ふふっ。は〜い」








外がどんなに寒くたって
あったかい料理とあなたの笑顔があれば
へっちゃらなんだって思えるから