She Is A Vampire Girl

DLCに触発されて書いてしまいました。
珍しいかもしれない、たかあずです。
設定ぶっ飛んでる上にちょっといかがわしい表現があります。
ご注意を!









霧雨の降る小道を、あずさはゆっくりと歩いていた。
滴の跳ね返りが靴を濡らす。
心地よい雨音に耳を澄ましていると心が洗われる気がした。
町の外れに続くこの道を歩いているのは彼女だけだ。
辺鄙なところだからという理由だけではない。
町の端にある古びた洋館。
時雨館と名付けられたその洋館で20年前、所有者一家が一斉に死んだのだ。
全員が床に血の泉を作って。
無理心中だ、いや妖怪の仕業だと人々は様々な憶測を飛び交わしたが、
凶器も犯人の痕跡も残っていなかったことから未だ真相は謎のまま。
以来気味悪がって誰も近づこうとしない。
今まさに時雨館へ向かうあずさを除いては。




ダークブラウンの洋館の前にあずさは立った。
雨は少し強くなった気がする。
心なしか遠雷も聞こえる。
目の前には豪奢な飾りが施された扉。
そっと手を添え、力を込める。
ギギィ
年月を感じさせる音を響かせ、扉はゆっくりと口を開けていく。
まず目に付くのは広大なエントランス。
中央にゆとりの大階段があり、廊下を介して2階の各部屋へ繋がっている。
吹き抜けの天井にはシャンデリア。
主人を失ってなお輝きを絶やさない。
――いや、いるのか。
新しい『主人』は。
あずさはエントランス全体を見回す。
そして、呼ぶ。
「貴音ちゃん」
語りかけるような語調で。
広い洋館で響き渡ることはない音量。
だが耳のいい彼女なら分かるはずだ。
すぐに、2階の左端のドアが開いた。
現れたのは臙脂色のドレスを纏い、銀色の髪を靡かせた
絶世の美女だった。
「あずさっ」
貴音と呼ばれた人物は、あずさを確認すると嬉々とした笑みを浮かべた。
あずさもにこりと笑みを返す。
貴音は軽い足取りで廊下を渡り階段を駆け下り
ふわり、と
あずさへとその体を預けた。
互いの腕に自然と力がこもる。
「お待ちしておりました…」
端正な顔をあずさの肩口に埋める。
息を吸いあずさの香りを堪能する。
微かに香る薔薇の香水の香り。
あまり好きではなかったはずなのに、彼女に会って嗅ぐ度に安心するようになった。
「私も会いたかったわ」
体を離し、あずさは貴音の額にキスを施す。
貴音は安堵の笑みをますます深くした。
そこで貴音は気になっていたことを口にした。
「髪を切ったのですね」
以前は背中まであった長い髪がばっさりとうなじ辺りまで切られている。
その言葉にあずさは貴音に窺う。
「そうよ〜。似合うかしら?」
「ええ、とても」
また同時に微笑む。
抱擁の代わりに手を繋ぐ。
「さあ参りましょう。今日は紅茶を淹れてみたのですよ」
「まあ本当に?楽しみだわ〜」
久々の会話を堪能しながら2人はダイニングへと歩いて行った。




洋館の規模に合わせてダイニングもそれなりの広さがある。
芳しい湯気が立ち上るカップをあずさが静かにソーサーに戻す。
「ふふ、美味しいわ」
「真ですか?嬉しく存じます」
紅茶はあずさの好みにぴったりの味わいだった。
匂いがきつすぎず、しかし味はしっかりと引き立っている。
きっと丹精込めて淹れてくれたのだろう。
「貴音ちゃん」
「はい?」
カップを戻した貴音が優雅に振り向く。
「お腹、減ってない?」
貴音が息を呑んだ気配がした。
ゆっくりと告げる。
この人に嘘はつけない。
「…はい、少々」
「なら、私を食べて」
纏う雰囲気には似つかない、物騒な言葉があずさから出る。
食べる。
啜る。
大切な人を。
貴音は残酷な選択を強いられた。
「いえ、しかし……」
「あなたが苦しそうな顔をしていると、私も辛いの。だから、ね?」
なおも貴音はためらいの姿勢を見せた。
だがあずさの強い視線に屈するしかなかった。
「分かりました。頂きます」
あずさが笑った。
今までの笑みとは違う意味を含んでいるように、貴音には見えた。


同じダイニング内の長椅子に二人は移動した。
上半身を少し捻って対面する形だ。
「では」
貴音の言葉にあずさは黙って頷く。
きゅ、と貴音があずさの細い体を抱く。
普段よりはやや強めに。
裾を少し寛げると白い首筋が見えた。
ちくりとまた貴音の胸が痛む。
だがそれが貴音の食欲をかきたてたこともまた事実だった。
――美味しそう。
優しく頬ずりをするように肩に顔を寄せ
そのシルクの肌に
牙を立てた。




貴音はヴァンパイアと呼ばれる存在だ。
見た目は人間と変わらないが、人間の生き血を糧としそれのみを欲して生きる。
古来より妖怪の王として人間に畏怖されてきた。
そんな種族の貴音がどうしてあずさと共にいるのか。
きっかけは3年前に遡る。
人気のない時雨館に居ついた貴音は、ある日庭に出ていたところを偶然通りがかったあずさに姿を見られてしまった。
町の人間に知られたら厄介だ、と身構えた貴音に対し
あずさは逃げるでもなく大声を出すでもなく、普通の人間と接するように自然に貴音と触れあった。
どうしてそんなことができるのか。
ヴァンパイアが怖くないのか。
貴音は不可解だったが、幾度も時雨館を訪れるあずさがいつしかかけがえのない人になっていった。
だが一ヶ月もすると、貴音は吸血衝動を抑えられなくなっていた。
ヴァンパイアの『食事』のスパンは人間などと比べると非常に長い。
それでも限界はやってくる。
貴音の異変に気付いたあずさはこう言った。
『私の血を吸って』
当然、貴音は激しく躊躇した。
愛しい人の血を啜るという行為。
それだけでも罪悪感があるのに、もし衝動を抑えきれずに死なせてしまったら。
自分が死ぬよりも恐ろしい。
しかしあずさは自分で服の肩口を広げ、貴音に吸血するよう促した。
気づけば貴音はあずさの首筋に噛みついていた。
その血は今まで味わったことがないくらいに、甘美だった。




ずぶり、と尖った牙が柔肌へと沈みこんでいく。
「―――ッ」
あずさの首に鈍い痛みが走る。
次いで、体の中のものを引きだされる感覚。
何故だろう。
不快なはずなのにどこか心地いい。
血を奪われる代わりに心が満たされている気がする。
血を吸い取られる中で、あずさは得も言われぬ感覚に身を委ねた。
貴音の方は久々の『食事』に夢中になっていた。
こくりこくりと少しずつ喉を鳴らし飲み込んでいく。
押し寄せる陶酔感。
加減しないといけないと頭で分かりつつも、止められない。
いけない。
これ以上は。
わずかに残った理性で、口をあずさの首筋から離した。
傷口から流れる血を舐めとると、あずさの体が少し震えた気がした。
拘束の力を緩め、目を合わせる。
痛みからか潤んだ深紅の眼がそこにはあった。
「あずさ」
「貴――ぅんっ」
あずさはその名を最後まで呼ぶことができなかった。
唇を貴音のもので塞がれたから。
ただし今度は、牙を立てず。
舌を絡ませ口内をなぞり、唾液を吸い取る。
唇を離すと、あずさの身体の至る所にキスのシャワーを浴びせる。
「あ、んっ」
「あずさ、愛しています…」
貴音の手があずさの服の中へ侵入する。
ふくらみに触れるとしなやか肢体が跳ねた。
「あっ…貴音ちゃん…」
吸血への償いのように、貴音はあずさの身体を求めた。




行為の後、2人は折り重なるように長椅子に身体を預けていた。
貴音が短くなったあずさの髪を愛しそうに撫でる。
「ん…」
あずさがくすぐったそうに目を細めた。
額に浮かんだ微かな汗が艶やかに光る。
それすらも美しい。
「あずさ、ひとつ聞いても宜しいですか?」
「ええ」
身体の下のあずさが目で頷く。
「何故髪を切ったのですか?」
するとあずさが苦笑するように顔を歪めた。
答えるときっと責められる。
そんな表情をしていた。
「貴音ちゃんが私の血を吸うときに、邪魔かなと思って。
ほら、いつも貴音ちゃんの顔に私の髪がかかっていたでしょう?」
貴音の顔が曇った。
予想していたとは言え、本人の口から聞くと重い。
確かに以前は吸血をする度にあずさの長い髪が貴音の鼻をくすぐっていた。
あずさの紅い瞳に良く映えている藍色の髪。
髪は女の命と言う。
ならば彼女は命を捨てたのだ。
他ならぬ、貴音のために。
「何故そこまで…」
ため息のような貴音の言葉。
あずさが唇をその顔に寄せる。
「大好きだからよ」
また微笑んだ。
好きだから、あなたに身を捧げる。
好きだから、命を捨てられる。
貴音はあずさにとって、そういう存在。
咄嗟に貴音はあずさを抱きしめていた。
今日幾度目か分からない抱擁。
お互いの熱を分け合う行為に、貴音は縋る。
そして残酷な懇願をする。
「お願いします、あずさ。私と共にいてください」
血を啜らせろ。
食料になれ、と。
相手に求める。
でも、確かに愛しているのだ。
お互いの種族なんて関係ない。
もうこのまま溶けて、ひとつになってしまいたい。
強い力で、抱きしめ返された。
「ええ。ずっと、ずっといるわ」







あなたを思うことが罪だとしても
私はあなたを選ぶ