two of a kind

twitterでお世話になっているcoroさんとコラボをさせていただきました!
コラボの内容は、テーマを設定してお互いが出し合ったプロットを交換して作品を書くというものです。
テーマは「ひびまこ」「デート」「似た者同士」です。
coroさんのSSはこちらです!→なんか書いてみたり two of a kind
では続きからどうぞー。









現在の時刻、11:23PM。
眠りにつき始める者もいるだろう時間帯。
いつもならこの時間は寝ているはずの響は、まだ明かりをつけていた。
独りベッドの上で胸を高鳴らせている。
手にした携帯の画面には、アドレス帳。
その中のひとつの名前に焦点を合わせる。
菊地真
どうしてだろう。
どうしてこの名前を見るだけで、こんなにも幸せな気分になるんだろう。
さわやかな真の笑みを思い浮かべながら、響は寝返りを打った。
「明日かぁ…」
明くる日、真と響は二人きりで出掛けることになっている。
ごく一般に言うデートである。
二人は事務所内公認の中で(勿論世間には秘密だが)、当然デートもそれなりの回数は重ねている。
だがここ最近は二人とも仕事が増え、出掛けられない日々が続いていた。
ようやくオフが重なったのが明日だった。
事務所で何日か置きに顔を合わせているが、デートは実に2週間ぶり。
長らく二人きりになれなかった分待ち遠しさもひとしおというものだ。
だから寝ようと思っても目が冴えて眠れない。
緊張も多少はあるかもしれないが。
「(真はどうなんだろう…)」
響は何気なく、アドレスを呼び出してメールを打ち始めた。
もう寝付いていたら申し訳ないが気になる。
『ごめん、もう寝てたかな?こっちは楽しみで眠れないよ』
意を決して送信ボタンを押す。
数秒の送信中画面の後、完了の文字が浮かぶ。
響はもう一度寝返りを打ち天井を眺める。
そっと左胸に手を添えてみる。
いつもより早く、でも規則正しく刻む脈動。
「…うん、大丈夫」
声に出して呟く。
緊張ならもっと早鐘を打つようなスピードで、ランダムに暴れる響の心臓。
これは――期待だ。


静寂を破ったのは、響の携帯だった。
完全にリラックスしていたのでとび跳ねるように反応してしまう。
閉じた携帯の液晶画面には『メール受信』の文字。
開いて確認してみると案の定真からだった。
彼女らしい簡潔な一文のメールだ。
『まだ起きてるよ。ボクも一緒で眠れないんだ』
真も同じだったのか。
自分と同じように楽しみで、胸を躍らせて…
「くぅ〜!」
そう思うと何だか嬉しくて、響はベッドの上で転げまわって悶えた。
いぬ美が不審な目で見ている気がしたが無視しよう。
眠気は一向に襲って来ずに、夜は更けていった。





ピンポーン…
微かなインターホンの音を意識の片隅で聞いた。
引き上げられるように目覚めると再び、今度ははっきりと同じ音が響く。
どうやらいつの間にか眠っていたようだ。
昨日はずっと眠れないかもしれないと思っていたが、身体は休息を必要としていたようだ。
不思議と眠気はない。
それよりインターホンに対応しなければ。
こんな時間に誰だろう。
手櫛で寝癖を整えながら響は玄関に向かった。



「響っ!!」
玄関を開けると、いきなり怒声にも近い叫び声が響を迎えた。
顔を見なくても分かる聞きなれた声だった。
目を瞬かせながら響がその名を呼ぶ。
「ま、真」
響の愛する真その人だ。
デートだからか普段よりも数倍お洒落でかわいいファッションだ。
ストライプのキャミソールの上に新緑色のショートジャケットを羽織っている。
下はひざ上のフレアースカートにリボンをあしらったサンダルを履いている。
真の活発で明るい印象をより一層際立たせるコーディネイトだ。
違和感があるとすればひとつ。
真の表情と態度だ。
眉根を寄せて皺を作り不機嫌そうな顔。
腰に手を当てていかにもご立腹といった格好。
…何か怒らせるようなことをしただろうか?
真の放つオーラが怖くて、おずおずと聞いてみる。
「なあ…真、怒ってるのか?」
「怒ってるよ!響、今何時だと思ってるの?」
「えっ…」
そういえば時計を見ていない。
ベッドサイドに目覚まし時計があるのだが見ずに玄関まで来たのだ。
すると真が携帯を取り出し、待ち受け画面を響に突き出した。
そこに大きく表示されている時刻は…
「……11時5分……って、ええええ!?」
さーっと響の血の気が引く音がした。
待ち合わせ時間は10時。
一時間もオーバーしている。
「ずっと駅で待ってたのに、響全然来ないから不安で…。
で、家訪ねてみたらこの有様だもんなあ」
呆れたという風に深くため息をつく真。
「ごめんっ真!本っ当にごめん!!」
響は土下座の勢いで頭を下げ出した。
待ち合わせ時間どころか一時間後に目が覚めたのだ。
罪悪感でいっぱいだった。
しかし真の怒りは予想以上に強いようで、
「いーや、今回ばっかりは許さないね」
とそっぽを向いてしまった。
響はがっくりと肩を落とした。
恋人を怒らせてしまった自分が自分が腹立たしいやら情けないやら。
「どうすればいいんだ…?」
「そうだね…計画が全部台無しになったから、今日はここでデートかな」
真の言葉に響は成すがまま頷く。
真に許してもらえるのならこの際何だってする。
「じゃあ、どうぞ」
体を横にして道を空ける。


「お邪魔しまーす。あ、いぬ美久しぶりー」
声をかけられたいぬ美はわふ、と野太い声を上げた。
以前一緒に遊んで以来、彼女たちはすっかり仲良くなった。
尻尾を左右に振って真に懐く。
「(お前はいいよなあいぬ美。真を怒らせる事がなくて)」
響は羨望の目線を送った。
よしよしといぬ美を撫でていた真が思い出したように響に振り向いた。
「響ぃ、朝ご飯食べてないからお腹空いたよ。何か作って」
「え?」
いきなりの要求に思わず聞き返してしまう。
すると真の眼が意地悪そうに細められた。
「ボクはまだ許してないからね。お昼ご飯作ってくれたら考えるけど」
うぐぅ
響が重く喉を鳴らす。
そう言われては拒否できない。
壁掛けのハンガーから浅葱色のエプロンを取る。
「分かったよ。何がいい?」
「ゴーヤチャンプル!」
「はいはい」
返事をしつつ冷蔵庫の中を覗いた。
数十分後、テーブルに響お手製の料理が並んだ。
献立はゴーヤチャンプル、チキアギー、アーサ汁だ。
どうやら真は本当にお腹が空いていたらしく、皿から皿へ箸を動かしていく。
「うん、美味しい美味しい。いいよねゴーヤ」
「そ、そうだな」
曖昧に頷く響。
自分の得意料理を褒められたのにあまり嬉しくない。
まだ自分に引け目を感じている証拠だ。


真の次の要求は
「響、マッサージしてよ」
というものだった。
「マッサージ?」
「うん。響マッサージ得意って言ってたしさ。はい」
言うが早いかカーペットに寝転ぶ真。
響も真の上に跨る。
それで真の機嫌が良くなるのならやるしかない。
まずは両肩の筋肉をほぐす。
レーニングを欠かさないからか、真の体は少々凝っていた。
硬いところを円を描くように揉む。
「あ〜そこそこ」
真が気持ち良さそうに声を出す。
響のマッサージの腕は評判通りだったようだ。
的確に凝っている場所を捜し出し丁寧に揉みほぐしていく。
「気持ちいいな〜」
真の満足そうな声を聞いていると、響の重い気持ちが少しだけ浮かんでくるような気がした。


「響、いぬ美と一緒に遊んでいい?」
マッサージで体が楽になった真は次にそう言った。
「ああ、いいぞ」
いぬ美は相当気に入られていることが分かった。
まあ、体は大きいけど穏やかで人懐っこいから接しやすいのかもしれない。
「よーし、いぬ美ー!」
真が名前を呼ぶ。
大きな体を揺らしながらいぬ美がこちらに駆け寄って来た。
「ボール遊びしよう。これを取って来るんだよ」
真が話しかけると、言葉を理解しているのかいぬ美が縦に首を振った。
「じゃあ行くよ、それっ」
投げられたボールは綺麗な放物線を描いて飛んでいく。
いぬ美はそれを追いかけ、見事に口でキャッチした。
そしてのそのそと真の元に戻ってくる。
「よしよしいい子だな〜」
いぬ美の頭を撫でながら、真は響の方を振り返った。
「響も楽しみなよ。せっかく一緒に遊んでるのに」
「う、うん。でも…」
やっぱり素直には楽しめない。
今回のデートを変更してしまったのは他ならぬ自分だ。
ずっと前から立ててきたプランも全部台無しになった。
今は真は機嫌が直ったように見えるけどまだ心では響のことを許していないのかもしれない。
そう思うとやっぱり心が晴れない。
響が俯いて目を伏せていると
「…ぷっ」
「?」
「はは、あはははは!!」
真が何の前触れもなく、声をあげて笑いだした。
真らしい快活な笑い方だ。
響はぽかんと口を空けその様子を見ていた。
鳩が豆鉄砲を食らったような、とは正にこのことだろう。
どうしたのだろう?
自分は何かおかしなことを言ったのか?
「なあ、真…」
「ははは…ああ、ごめんごめん」
ようやく笑いの収まった真が響へと向き直る。
「響、ごめんね」
まず真はそう言ってぺこりと頭を下げた。
「へっ?」
さっきと同じくらいの驚きが響を包んだ。
何で真が謝るんだ?
顔を上げた真の顔は苦笑しているように見えた。
そして打ち明け始める。
「実はさ…僕も寝坊したんだよ」
「え?え?」
「目が覚めたのが丁度待ち合わせ時間でさ。
大遅刻だーと思ってすぐに着替えて待ち合わせ場所に向かったんだ。その時点でもう30分過ぎてたんだけど…。
響がいなかったから怒って帰っちゃったのかと思って、ここまで来たんだ」
なるほど、徐々に話が見えてきた。
それと同時に、響の罪悪感も薄れてきた。
「でも響ったら起きてもなくて、何だか馬鹿馬鹿しくなってきてさ。
響をちょっと困らせようと思ったんだ。ごめん」
真が再度頭を下げる。
話を把握して、ようやく響の顔から笑みが零れる。
「ふふ、あはは!」
嬉しさのあまり、響は真に思い切り抱きついた。
真の体がのけ反る。
「ううん、全然いいんだぞ。真が怒ってなくて良かった!
そっか、真も同じだったのか」
ぎゅっと抱きしめ返してくれる感覚。
そう長くは慣れてないのに、不思議と懐かしく感じる。
「そうだね。昨日のメールといい、ボクたち本当に似た者同士だよね」
「あはは、だから相性がいいんだろ?」
「そうかもしれないな」
すっと真が響から体を離す。
「じゃあ、お互い謝ろっか」
「うん、どっちも悪いんだし」
二人とも正座に座りなおす。
そして互いの眼をじっと見つめ
「「ごめんなさい」」
素直に頭を下げる。
謝罪の意を示すために。
水に流していつも通りに戻すために。
と、
こつん。
真と響の額が軽くぶつかった。
「「あ痛っ!?」」
その咄嗟の一言さえも同時で、二人はまた笑いだした。
どこまで行っても、この二人は似た者同士なのだ。





謝罪の後普通の自宅デートを楽しんだ二人。
「あ、響。ボクそろそろ帰らないと」
「もうそんな時間かー。じゃあ駅まで送っていくさー」
「ありがとう」
夏が近づくにつれ、遅くなる夕暮れ。
7時前という時間だがまだ西の空がほんのり白んでいた。
手を繋いで歩いている途中、響が口を開いた。
「真」
「ん?」
「その服、似合ってるな。可愛いぞ」
すぐにぽっと真の頬が染まる。
『可愛い』『綺麗』という言葉に慣れていない彼女。
そういう初々しいところも魅力の一つだと響は思う。
「もうっ今更何だよ!」
てれ隠しなのか、真は怒ったように腕を振りかざす。
反射的に響は目を瞑ってしまう。
まさか本気で殴ったりはしないのだろうが。


チュッ


可愛らしい音と何かが触れる感覚。
それの正体が分からないほど、響は子どもではない。
目を開けると上目遣いでこちらを窺う真の姿があった。
「今日、いっぱいワガママ聞いてもらったから。そのお礼」
言いながら真が目を細める。
今度は意地悪なんかじゃない。
響はどんどん、真のことが好きになっていく。
彼女らしくニッと歯を見せて笑った。
「じゃあ今度は自分がワガママ言う番だな!」
「何をするの?」
真が聞くと響は一瞬口ごもる。
どれだけ長い時間を共に過ごそうと、やっぱりこの言葉は恥ずかしい。
知らず知らずのうちに、声が小さくなってしまう。
「…キス、させて」
そんな響を見て真の頬が緩む。
響は真を可愛い可愛いと言うけれど
そう言う自分も負けないくらいに可愛いのだと、本人は気付いているのだろうか。
胸を温かくさせた真はゆっくり眼を閉じる。
すぐに唇の感触が追ってくる。
いつものキスより少しだけ、淡い味がした。





似た者同士だからこそ
これからもずっと、分かち合える。