I Wish

クリスマスも近いのでそれ関係のSSを。
あずちは(百合成分少なめ)にしてみました。
こういう雰囲気のはこの二人が似合いますよね。








街中にはまばゆい光が満ちている。
この街は季節にかかわらず明るいが、今の時期になるとより輝きを増す。
行き交う人々もどこか浮かれ、舞い上がっている。
そんな周囲の人々をよそに千早は足早に歩いていた。
仕事終わりに新発売されたクラシックのアルバムを購入し、その帰りなのだ。
様々に街を彩るイルミネーションを綺麗だと思ったことはなかった。
こんなもの、ただのLEDの光だ。
淡々と進んでいた千早は、ふと足を止めた。
街の中心の広場。
その更に中心にそびえ立つ大木。
大きくはあるが普段はあまり存在感を意識されない木。
それが、イルミネーションが飾られ、装飾を施され、鮮やかに生まれ変わっていた。
金色のモールを被り、色とりどりの人形やボールで着飾っている。
全て包んで、辺りを照らす鮮やかな光。
あまりにも美しく、幻想的な雰囲気に千早は思わず息を呑んだ。
そして自分の想いを省みていた。


実のところ、千早は羨ましかった。
他の人たちはクリスマスを一緒に祝ってくれる人がいる。
家族であれ、恋人であれ。


自分の倍はありそうなツリーを見上げた。
自分が望むのは幸福なクリスマス。
皆と同じ幸せな時間。
…過ごせるのだろうか。
いつかは。




「あら〜、千早ちゃん?」
気付くと真正面に女性が立っていた。
垂れ気味の目を瞬かせて千早を見ていた。
「あっあずささん!」
完全に気を抜いていた千早は身体を飛びあがらせた。
その様子を見てあずさはおかしそうにほほ笑む。
「ふふっ千早ちゃんたら珍しくぼうっとしていったから、いたずらしちゃおうと思って」
「もう…びっくりしたじゃないですか」
ごめんなさいね、と笑いながら謝るあずさ。
大木の方へと振り返る。
「綺麗ねえ。いつも見ている樹が、こんなに変わるなんて」
「ええ。思わず魅入ってしまいました」
気付けば、道行く人々も立ち止まって見惚れている。
それほどの魅力が満ちているのだ。


しばし二人で見上げていると、あずさが千早を見つめて口を開いた。
「ねえ、さっき何か考えていたでしょう?」
「えっ?」
「千早ちゃんが意味もなく無防備になることなんてないもの。
だからきっと、何か深刻なことを考えているんじゃないかって思ったの」
あずさの言葉に千早は苦笑する。
おっとりしている彼女は時々、どきりとさせるようなことを言う。
「深刻なことではないのですけど…」
ぽつぽつと一言ずつ、語り始めた。
「私、楽しいクリスマスって遠い記憶にしかないんです。
家族がバラバラになってしまう前の…
あの頃はとても温かかった。クリスマスが毎年すごく楽しみで仕方無くて…」
美味しい料理に舌鼓を打って、プレゼントに心を躍らせて。
あんなに楽しい日は他にはなかった。
「今はもう、クリスマスでも独りで家にいて、普通の日と何ら変わりなんてなくて。それが当たり前になってしまいました。
でも思ったんです。これじゃ嫌だって。私だって他の人と同じようにクリスマスを過ごしたい。
クリスマスくらい、笑って楽しみたいんです」
こんなことを話されても迷惑なだけだろう。
個人的な悩みなのだから。
千早は少しだけ後悔した。
しかしすぐに、あずさから予想外の答えが返ってきた。
「あら〜、そんなの簡単よ」
「……?」
「みんながいるじゃない。765プロのみんなが」
「あ…」
「あの子たちがいればいつでもどこでも楽しくなるわよ。
そうね…きっとクリスマスパーティなんて開くんじゃないかしら。
全員で祝えば、千早ちゃんも楽しくなるはずよ
みんながいれば寂しくなんてないんだから」
そうだ。
千早には温かく迎え入れてくれる人たちがいる。
クリスマスを一緒に過ごせる人たちがいる。
それはきっと、食べて遊んで騒いで。
ロマンチックではないのだろうけど、かけがえのない大切な時間になる。
春香はお手製のケーキを作ってくるだろうとか
美希は食べるだけ食べてソファで寝るんだろうなとか
容易に想像できてしまう。
「ふふっ笑えたわね、千早ちゃん」
「笑う…?」
「さっきからずっと笑ってなかったのよ。安心したわ」
あずさの笑みに千早は照れくさそうにはにかんだ。
「それにね、私が千早ちゃんと一緒にいてあげる。クリスマスの一日ずっとね」
「ええっ!?」
「事務所のみんなにはナイショよ?」
しー、とあずさは人差し指を唇に当てる。
あふれ出る優しさに千早はまた笑った。






寒い冬だからこそ
みんなで温まればいいから