もしもアイドル達がブルーインパルスのパイロットだったら

一時間SSに参加しましたー!

今回のテーマは「ジェット」「風鈴」「目標」「若鮎」。
ジェットを選んでみました。
ちょっと特殊な感じになってしまいました^^;









じりじりと肌を焦がす太陽の下
とある自衛隊基地には、大勢の人が集まっていた。


「うわ〜お客さん多いねー。緊張してきちゃった」
パイロットスーツに身を包んだ春香が、上擦った声で呟く。
「肩の力を抜いて練習通りやれば問題はないわ」
そう言う千早は淡々と機体のチェックをする。
「まあ、いつも通りテキトーに行こうよー。あふぅ」
あくびをしながら通り過ぎて行ったのは新米パイロットの星井美希
「うっうー!お客さんに喜んでもらえるように頑張らないとですね!」
「もう、張り切り過ぎて空回りしないでよ」
チーム最年少のやよいが元気よく飛びはね、伊織がそれを制する。
「機体チェック、完了しました!」
カニックチーフがこえをかけた。
彼らのおかげで、春香たちはあんしんして飛ぶことができるのだ。
「よーし、真!」
「うん」
ヘルメットを肩に担いだ真が、立ち上げった。
5人の仲間に向かって勢いよく号令をかける。
「よーし、ブルーインパルス、出動だ!」
「「おーっ!!」」





ブルーインパルス
航空自衛隊宮城県松島基地第4航空団所属第11飛行隊。
航空自衛隊の存在を広めるために作られた、アクロバット飛行を専門とする飛行チームだ。
主に航空祭や大きな行事で活躍し、観客たちの注目を一身に浴びる。
「よいしょっ」
全員が機体に乗り込み、各数値をチェック。
リーダーの真が各機に合図を送ると、6つのエンジンが同時に起動する。
轟音が鳴り響き、パイロット達の身体は凄まじいGでシートに押し付けられる。
だが弱音を吐くものなど一人としていない。
彼らは洗練された戦士であり、観客たちに歓喜と夢を与える使者なのだから。







まず最初の展示はダイヤモンド・テイクオフだ。
伊織機とやよい機が、離陸する速度を遅めた。
残りの4機はほぼ同時に離陸する。
真機が先頭、やや後方に春香機と千早機が左右に広がり、最後尾を美希機が飛ぶ。
間隔を乱すことなく、先頭以外の3機がスモークで軌跡を描き飛び立っていく。
等間隔に揃った3本線は、さながら河川を思い起こさせる。



美しいパフォーマンスではあるが、まだ序の口。
真が後続機に通信をかける。
「右旋回、ナウ」
「了解」
飛び続ける4機はおもむろに旋回し始めた。
しかもただ旋回するのではない。
機体を180度回転させてである。
フォー・シップ・インバートという技である。
腹を上に向けた状態で安定した飛行を見せる4機。
無重力下でもない地上でこの体勢はパイロットには大きな負荷となる。
屈強な身体と繊細な操縦が必要とされる難易度の高い技でもある。
しかしスモークは一糸の乱れもない。
地上では拍手と歓声が沸き起こっていた。





パフォーマンスはまだまだ続く。
数分の後正常位置に戻った4機に伊織機とやよい機が遅れて合流する。
すると4機は引導を渡すように速度を緩め、逆に2機はぐんぐんとスピードを上げていく。
「行くわよ、やよいっ」
「うんっ」
通信でタイミングを合わせ、2機がパッと逆方向へと散った。
数秒の直進の後、同時にぐるりとUターンし相手の機体へと突っ込んでいく。
機体を回転させながら、スピードを落とすことなく2機はすれ違った。
地上では「おお〜っ」という安堵とも感動とも取れる響が木霊した。
これがタッククロス。
あわやぶつかるのではないかという近距離での交差はスリル感たっぷりだ。
観客の中には最悪の事態を想像した者もいるだろう。
しかし彼女たちに限ってそんなことはない。
「にひひっ!やればできるじゃない!」
「ありがと伊織ちゃん!」
6人の中でも特に強い絆で結ばれている2人なのだから。




寄り添うように飛び続ける2機に春香機、美希機、千早機が追いついた。
今から行うアクロバットは5機で行うものなので、真は遠方からの完成度チェックへと回る。
5機は上昇気流のように浮き上がる。
恐らく地上では簡単に機体を黙視できないほどの高度だ。
「高度よし。みんな、行くわよ」
千早の合図で、5機はパッと蜘蛛の子を散らすように広がった。
一定の距離をとって全機が止まった。
そして各々がスモークで歪みのない直線を描いて行く。
最初は何をしているのか分からなくても、5つのスモークが徐々にしっかりした形を帯びていくのを見れば理解するだろう。
直線で結べば正五角形になる等距離にある5機。
最高点の春香機は斜め右下、美希機が止まる場所へ。
美希機は斜め左上、千早機が止まる場所へ。
千早機は右直進、伊織機が止まる場所へ。
伊織機は斜め左下、やよい機が止まる場所へ。
やよい機は斜め右上、春香機が止まる場所へ。
お分かりいただけただろうか。
そう、この5機はスモークで、星の模様を描いていたのだ。
スタークロスと言い、アクロバット飛行の中でも特に人気が高い。



(この他にも様々な技があるが、都合上割愛)



いよいよ最後の飛行だ。
「春香、千早!」
「うん!」
「分かったわ」
真の号令で真機、春香機、千早機が浮上する。
春香機と千早機は共に上昇し、緩やかに二手に分かれスモークを発生させる。
ゆっくりと半円の弧を描いた後、2機は急降下する。
これが単独だと歪な形になるだろうがこの2人にかかれば何とも可愛らしい形になる。
観客の中で舌足らずな幼い声。
「ママぁ、ハートマークだよ」
その他の観客も美しさに目を奪われていた。
2人が描いたのは左右対称の綺麗な愛の印。
スモークを確認した春香と千早は同時に叫んだ。
「「真!」」
その中心めがけて突進するのは真機だ。
「いっけええええええ!」
真は凄まじいGを感じながら、充実感に身体を高揚させていた。
回転する機体はスモークを派手に噴き見事にど真ん中を貫いた。
真機が描くスモークの軌跡は、ハートを射抜くキューピッドの矢となった。
バーティカルキューピッド。
愛と夢を運ぶブルーインパルスに相応しいアクロバットである。
最高の演技に、地上からは地鳴りのような歓声が飛ぶ。
高高度にいるパイロット達には聞くことも見ることもできなかったが、彼らの想いが身体に染み渡っていくように感じた。
ブルーインパルスに入って良かったと思える瞬間のひとつだ。





「疲れたー!でもお客さん喜んでるみたいだし、良かったねー」
「もう、春香ったら。現状で満足してたらダメよ」
「でもでも、今日の出来は大成功かなーって!」
「まあこの伊織ちゃんがいる以上、当然よね!」
「ミキ的には、ミキにもうちょっと難しい技任せてほしかったってカンジ」
思い思いの感想を述べ合う。
きっと緊張からの解放感と、無事やり遂げた達成感に高揚しているのだろう。
厳しい演習にも勝る何よりの元気の源だ。
「さあ、RTB(帰還)してお客さんに挨拶だ!」
「了解!」
真の一声で、まっすぐと基地に向かう6つの機体。
その姿にどこからともなく拍手が飛ぶ。





彼女たちはブルーインパルス
華麗で優雅、大胆で繊細なフライトを実現する。
夢と感動を人々に与えるために。










参考元
航空自衛隊 ブルーインパルス http://www.mod.go.jp/asdf/blueimpulse/
一部脚色あり。