その温もりをこの手に

ひびまこ話です。
構想時間は30分ちょっとです(殴
ちょっとシリアステイストかも…?
【追記】アイマス絵師の晴嵐改さんより挿絵を頂きました!
本当にありがとうございます!










迂闊だった。
恋人になっても(しかも半同棲状態)彼女の知らない部分があった。
知ったきっかけはどうということはない。
最近ボクが春香とよく遊びに行くようになったのが発端だ。
週一のペースで彼女と出かけるボクのことを、響は良く思っていなかったらしい。
ボクとしては春香はいい友人であって恋愛感情云々はないし、第一恋人である響を差し置いて好きな人がいるわけがないのだけれど
それを言うのが少し遅かったようだ。




ある日曜日のこと。
「じゃあ、春香とショッピング行ってくるよ」
つい最近買ったばかりのパンプスを履きながら、ボクはリビングにいる響に声をかけた。
そう、この日も春香と会う約束をしていたのだ。
今回は夏物の服を選ぶんだとか。
後ろから響の声が聞こえてきた。
「うん…なあ真」
「何?――わっ」
突然背後から響がぶつかってきた。
そしてぎゅっとお腹に腕を回される。
「響?」
問いかけてみたら腕の力が強くなった。
マンションの玄関に二人入ると流石に狭い。
何か言いたいことがあるんじゃないかと響の言葉を待っていだけど、何も言葉を発さない。
というか、そろそろ行かないと待ち合わせに遅れてしまう。
「あの…響、いいかな?」
「……うん、ごめん。行ってらっしゃい」
すぐにボクを解放してくれた。
でもその顔は晴れやかと言うには程遠くて。
少し気になったけど、深く考えずにボクは玄関を出た。
今思うと自分自身の鈍感さにほとほと呆れかえる。
響の心は、不安で崩れそうになっていたのに。







帰宅は7時を回っていた。
お店を回ってアイスを食べてついでに映画を見たら予想以上に遅くなってしまった。
外はもうとっくに日が暮れて、住宅街からは夕飯の支度の匂いが漏れていた。
「(響怒ってるかなあ…)」
ひょっとしたら雷が落ちるかもしれない。
帰るのが気が進まない…。
と、思っていたのだが
「お帰りー真!今日はシチューにしてみたんだぞ!」
迎えてくれた響があまりにもテンションが高くて拍子抜けしてしまった。
ボクでも違和感を覚えるくらいだから相当だろう。
「ねえ響、何かあったの?」
「いや、何でもないぞ?いつも通りの自分さー」
それは嘘だ。
しかし問い詰めるという選択肢はボクの頭にはなく、ただ響を見つめているだけだった。
ダイニングテーブルに荷物を置いて座ると、響も向かいに座った。
「それより真、ショッピングはどうだった?」
「うん楽しかったよ。服も何着か買ったし」
紙袋を指差す。
春香はボクの倍くらい買ってたけど。
「あっそれとね、久しぶりに春香とプリクラ撮ってきたんだ」
バッグの中をごそごそと探る。
あれ、どこに行った…奥の方に埋もれてるのか?



「真、春香と仲いいんだな」
唐突に響が口を開いた。
「え?」
「自分じゃなくて春香とくっついた方がいいんじゃないか?」
ボクをからかう時のいつもの意地悪そうな顔。
でも普段とは何かが違った。
少し気味が悪くなるくらいの、違和感。
「…何言ってるんだよ」
「変なこと言ってるか?でも真が誰とでも仲いいのは事実だろ」
響は立ち上がり、いつの間にかボクの肩を掴んでいた。
痛みを感じるほどじゃないけど、それでも十分強い力だ。
「でも、自分には真しかいないんだよ!」
吐き出すような彼女の言葉にボクはようやく理解した。
叫び声はやがて掠れた涙声になった。
「東京に来てからずっとずっと独りで……辛くて……それを救ってくれたのが真だった」
そう、彼女は孤独だった。
沖縄でスカウトされて上京してからは、961プロの方針に従って独りでアイドル活動をしていた。
友達も作らず、家族にも会えない。
どれだけ寂しかったのかなんて想像もできない。
「真に見放されたら、自分また独りになっちゃう。やだよ真…傍にいてよ……」
いつも気丈で笑顔を絶やさない響の奥底が見えた気がした。
誰よりも孤独の辛さを知っているから
明るく不安がないように振舞っているだけのことだったのだ。
ボクという温もりと出逢ったからこそ、それを失うことを極度に恐れている。
「ごめん響。辛い思いさせちゃって。ボク、馬鹿だね」
縋りついてくる響の身体を抱きしめた。
普段はリードしてくれる彼女だけど、ボクより年下だし背も低い。
今はその身体が小刻みに震えている。
「でもね、響は独りなんかじゃないよ。春香もやよいもプロデューサーも、他の皆だって
響のこと大切な仲間だと思ってる」
敵だったことも嫌なこともひっくるめて、皆もう765プロの仲間なんだから。
頼っても、甘えてもいいから。
そして
「そして何より、ボクが一番響のこと思ってるから。独りになんて、絶対にさせない」
あの日々に逆戻りするだなんて、ボクが許さない。
いつだって傍にいてあげる。
手も握ってあげるし、こうやって抱きしめたりもしよう。
彼女がもう不安にならないように。
「ま、こと……」
ぎゅっと服の裾を掴まれた。
ボクは何も言わない。
そのまま、しゃくり上げながら泣いてる響を、ただ抱きしめていた。







「ねー真。次のオフはどこに行く?」
次の日、事務所で春香に笑顔で聞かれたけど首を振った。
「ごめん、当分遊びに行けそうにないや」
あれ、と春香が意外そうな顔をする。
いつも二つ返事でOKしてたからね。
「仕事忙しくなってきた?」
「ん〜、そういう訳じゃないんだけど」
昨日の響を思い出すと、どうしても傍にいなければと思ってしまう。
とりあえずは彼女が満足するまでは。
不思議そうにしていた春香が不意に手を叩いた。
「あ、分かった。響ちゃんに説教されたんでしょ?」
「説教っていうか…」
当たらずしも遠からじ、かな。
春香って変なところで勘がいいなあ。
「そういうことなら仕方ないね。じゃあ響ちゃんによろしくね〜」
さっさと帰ってしまった。
微妙に勘違いをされた気がするんだけども
理解がある友人がいるということはいいことなんだろう。






その日の仕事は早めに終わって、6時にはマンションに帰ることができた。
そういえば響は午前中で上がりって言ってたっけ。
ドアを開けると、音で気づいたのか慌ただしくリビングから足音が聞こえてきた。
「お帰りっ真!」
盛大に抱き付かれてしまった。
ガバッという擬音語がふさわしい。
あまりの衝撃に少しよろけてしまったけどそこは踏ん張った。
「うん、ただいま響」
響は嬉しそうに笑って見せた後
ボクの存在を確かめるようにキスをした。









いっぱい甘えてよ
いっぱい抱きしめてよ
ボクはずっとここにいて、受け止めてあげるから











ツイッターの会話から、ひびまこ話を書くことになりました。
甘〜いのもいいですがたまにはシリアス気味なのもいいかなと思いこうなりました。
しかしラストで本性現しちゃったね!w
でも書いていて凄く楽しかったです。
次はどんなテーマで書きましょうか。