Green tea, Green days

今週も1時間SSに参加しました〜!

テーマは「緑」「アメ」「ステップ」「グラス」です。
私は「緑」を選びました。
【追記】晴嵐改さんにイラストを描いて頂きました!
ありがとうございます!













萩原雪歩の特技は、お茶を点てることである。
小さい頃から茶道に親しんできた故に、礼儀作法は非の打ちどころがない。
肝心のお茶の味はまだまだ発展途上というところだ。
しかしここ最近はアイドル活動が忙しくなってきたため茶道の教室にも通えず、雪歩は少々寂しい思いをしていた。
事務所で緑茶を淹れるのがせいぜいだ。
誰かに自慢したいわけでもないしあくまで趣味なのだけども
それでもやはりどこかに寂しさは残っていた。





その日は事務所の同僚は皆出計らっており、フロアには雪歩しかいなかった。
雪歩自身午後から雑誌の取材が入っているのだが暇を持て余し自分で淹れたお茶を啜っていた。
我ながら程よい湯加減だ。
いつにも増して時間がゆっくり流れている気がする。
雪歩にとっての至福のひとときだ。
「あら?雪歩ちゃん」
「ひゃうっ!?」
突然の後ろからの声に、雪歩は思わず湯呑を落としそうになった。
「あらあら、びっくりさせちゃったかしら。ごめんなさいね〜」
声の主は実におっとりした口調で非礼を詫びた。
雪歩はぶんぶんと勢いよく首を横に振る。
「いえっぼーっとしてた私が悪いんですぅ。すいません〜」
彼女は――三浦あずさは、悪気があって他人を驚かすようなことは決してしない。
それが分かっているからこそ、雪歩は何だか自分が悪いような気がして身を縮めた。
あらあら、とあずさは少し困ったように笑って、雪歩の隣に腰かける。
「雪歩ちゃんは今日はお休みなの?」
「いえ、午後から取材があります。あずささんはどうしたんですか?」
「私はお休みを貰ったんだけど、家にいても落ち着かなくて。だから事務所に来てみたんだけど、皆出かけてるみたいね〜」
「どんどんお仕事が入ってきてるみたいで…それに比べて私は…」
またネガティブ思考に走ろうとしていた雪歩を、あずさが止める。
「そんなことないわ。雪歩ちゃんだって努力してるもの。絶対に報われる日が来るわ」
「あずささん…」
あずさは不思議な人だ。
765プロのアイドルの中ではある意味一番危なっかしいのに、どこか人を癒してくれる雰囲気を醸し出している。
空気がどんなに重くてもギスギスしてても、彼女の一言で一瞬にして和んでしまうことだってある。
雪歩にはそれが羨ましい。
真のポジティブシンキングや貴音の度胸のように
あずさのおおらかさや包容力が自分にもあれば、と思ってしまう。
そう言うと、またあずさに優しく窘められてしまうだろうけど。
「あ、あの、お茶淹れてきますねっ」
「まあ、じゃあ頂こうかしら〜。ふふっ」
ささやかなお返しにお茶を出すことにした。
というか、雪歩にはそれしかない。
確かいいお茶っ葉があったはずだ。





給湯室に入った雪歩は手際よく準備にとりかかった。
まず湯呑にポットのお湯を注いで一分間待つ。
お湯が80度前後になったらお茶っ葉を少し多めに入れる。
その後急須にいったん移し葉が開くまで一分待ち、濃淡のないように均等に湯呑に注ぐ。
自分が淹れられる最高のお茶が、いつも励ましてくれるあずさへのお礼になる。
雪歩はそう信じていた。






「お待たせしましたぁ」
「いい薫りね〜」
お盆に二人分の湯呑と急須を乗せて、雪歩は席に戻った。
あずさは緑茶の薫りだけで満足しているようだ。
湯呑から立ち上る湯気が揺らめく。
「じゃあ頂きます」
すっと、美しい音を立ててあずさが茶を口に含む。
雪歩の心臓はうるさく音をがなり立てていた。
もし苦みが強すぎたらどうしよう、濃さはあずささんの好みに合っているだろうか…
いつもの悪い癖がまた出てしまう。
「ん、とっても美味しいわ、雪歩ちゃん」
朗らかなほほ笑みを見て、雪歩の心に光がさした。
「今度美味しい淹れ方を教えてちょうだい」
「は、はい、喜んでっ」
憧れのあずさに褒められて雪歩は有頂天だった。
「あら、雪歩ちゃん」
あずさは雪歩の湯呑を指差す。
「お茶柱が立ってるわよ」
「え?」
見ると確かに、黄緑色の中にぽつりと一本の縦線が浮かんでいた。
茶に慣れ親しんでいる雪歩でも滅多に見ない光景だ。
見るのはいつ振りだろう。
「きっと今度のオーディションは一位合格ね」
我がことのように喜ぶあずさ。
つられて雪歩も笑ってしまう。
こんな幸せでいいのだろうかと、雪歩は神様を疑い
同時に感謝もした。






ああ、きっとこの茶柱
このさきもずっとあずさといられることの表れなのだと
雪歩は無意識にそう思っていた












あずゆきです、マイナーです。
緑→緑茶→雪歩!という連想からできました。
あずささんと絡ませたのはほのぼのとした空気が作りたかったからです。
この二人なら喧嘩もせずに仲良くしてるんだろうな―とかw
意外とぱぱっと話が浮かびました。
文にするのに苦労しましたが…。