まことウルフ 其の壹

アイマス×化物語2章です!
ようやくというか何というか、シリーズ再開です。
久しぶりなのでどうやって文章を書こうかと悩んだりもしました。
今回は題通り、真がメインですよ。













菊地真に憑いた怪異の話をするにあたって、彼女のことを少し説明しておく必要があると思う。
真というなんとも男らしい名前だが彼女はれっきとした女の子である。
しかし名前に違わず爽やかで王子然としているところから熱狂的なファン(主に女性だが)が多い。
まだまだ発展途上のランクDアイドル。
いつも明るい笑顔を絶やさない彼女でも
心の闇を持っていた。
その闇を消し去るためだとは言え、あんなものに手を出すべきではなかったのだ。
あの、狼には。








=====









目覚まし時計は12と6の文字を指して綺麗に直線を描いていた。
気を抜いた僕の口からは間抜けな大欠伸が漏れた。
ナマケモノもびっくりだろう。
何だってせっかくの休日なのに早く目が覚めてしまったのか。
昨日は戦場ヶ原と夜更けまでメールとか電話とかしていなかったからか。
下手すると夜中の2時とかまで続くんだけどな。
昨晩は事務所のバイトが忙しすぎてそれどころではなかった。
疲れ過ぎてシャワーも浴びずに寝てしまったのだ。
まあそれはいいとして、どうしようか。
数瞬考えた結果、二度寝も勿体ない気がして僕はそのまま起きておくことにした。
早起きは三文の得って言うしな。




昨晩しそこねたシャワーをし、歯を磨いてからまず散歩を始める。
引っ越して来てから早一ヶ月、だいぶこの街にも慣れてきた。
とはいえ早朝の空気はいつものそれとは違うものだ。
味などしないのに美味しく感じる。
薄い水色の空から太陽が柔らかく街を包んでいる。
ああ、いい朝だ。
僕の目に留まったものがあった。
道の向こう側から走ってくるシルエット。
かすかに聞こえる息継ぎの音。
身体に連動して跳ねる二本のアホ毛
黒色のトレーニングウェアと、あのアホ毛で分かった。
案の定そのシルエットは僕を認識したようで走る速度を緩めた。
「よお、菊地」
「おはよう阿良々木さん」
ニッと歯を見せて笑うこの子は菊地真
765プロきってのボーイッシュアイドル。
ただ性格はロマンチックな女の子だ。
「奇遇だね。ここら辺に住んでるの?」
そして僕に敬語を使わない数少ない女の子でもある。
まあ僕がそうしてくれって言ったんだけど。
「ああ。お前も家近くなのか?」
「ううん、隣の隣の町に住んでる」
…ん?
「おい、じゃあ二つ隣の町からここまで走ってきたのか?」
「そうだよ。10キロくらいかな」
さらっというな。
普通に考えても1時間くらいはかかるぞ…!
菊地の様子を見ても、汗は額や首に浮かんでいるものの息はほぼ乱れていない。
嘘言うような奴じゃないし、本当なのだろう。
全く嘘のような存在だな。
そう、彼女のもう一つの特徴。
常人離れした体力だ。
若干16歳の少女なのにアスリート並の身体能力を持っている。
100メートルを12秒で走るとか、遠投50メートル投げるとか、そんな噂まで飛び交ってるくらいだ。
ふと、僕の母校の後輩を思い出した。
菊地と彼女だったらどちらが上なのだろう。
会わせてみたい気もするが、菊地の身が危うくなりそうなのでその案は却下した。
あいつからしたら菊地は萌え要素の塊だろうな。
「でもお前も今日オフのはずだろ?休みの日までそんなに身体動かさなくていいんじゃないか」
「いいんだ。ボクが動きたいだけなんだからさ。加減はしているよ」
「朝から10キロランニングが加減の域に入るのか…!」
ロンドンオリンピックでも目指しているのか。
菊地ならその気になればメダル取れると思うけどな、それも金色。
「いや、あと2キロくらい残ってるんだ。一緒に走る?」
「全力で遠慮しておくよ」
彼女のペースで走ったら5分も持たない。
そんなことを考えていたら、菊地がクンクンと鼻を鳴らした。
「…そういえば阿良々木さん、朝シャンしてきた?」
「ん?ああそうだけど。良く分かったな」
「シャンプーの匂いがしたから」
そうか?
僕は全くと言っていいほど何も分からない。
自分の匂いだから分からないだけだろうか。
「何か最近鼻が良く効くんだよね」
そう言ってまた鼻をひくつかせる菊地。
「あと歯が尖ってきた気がするし。歯並び悪くなってるのかなあ」
口を広げて僕に見せてきた。
ちらりと光る、鋭い犬歯。


ざわり


全身が泡立った。
脳が一瞬で記憶を開放する。
伸びた犬歯。
焼けつく身体。
人間を超越した能力。
傷を受け傷をつけ
何もかもが変わってしまった
あの春の出来事。


気が付いたら、菊地の肩を思い切り掴んでいた。
「うわっ!?」
「菊地、目はいつも通りか!?」
ほとんど本能だった。
「う、うん、変わらないよ」
「力は!?」
「普通」
「太陽は平気なのか!?」
「…って、今当たってるんだけど」
「あ…」
その言葉でようやく我に返った。
脱力して地面に座り込みそうになる。
菊地が首を傾げてこちらを見ているがそんなことは気にならなかった。
そうだ、何を聞いているんだ。
もし彼女が吸血鬼だとしたらこんな日中から外に出るはずがない。
あの歯を見たとたんに思い出してしまった。
頭が、少し痛んだ気がした。
「他に変なところは?」
「う〜ん…特にないなあ」
安堵のため息が出る。
とりあえず吸血鬼ではないことは再確認した。
しかし気になる。
ここ最近で起きた身体の変化。
もしかしたら彼女もまた怪異に首を突っ込んだのではないだろうか。
「なあ菊地。その変化が出始めた頃に何か無かったか?」
「何かって?」
「えっと…例えば事故に遭ったとか、変なものが見えたとか」
菊地はますます不思議そうに僕を見つめてくる。
当たり前だよなあ。
それでも疑ってはいないところが菊地のいいところだ。
「え〜…あ、神社にお参りには行ったよ。その後かなあ、変な感じがするようになったの」
「神社?」
「そう。有名な神社で、お参りするとよく願いが叶うって言われてるんだ
で、行ってみたらボクの悩みも解消された!」
右手でVサインを作る。
神社、ね。
「ふうん、悩みって何なんだ?」
「む、乙女の悩みは軽々しく聞くもんじゃないよ」
「何だよそれ」
一見男らしいくせに。
口にしたらヘビー級のボディーブローが飛んでくるな。
「それで?もう質問がないなら言っていいかな」
菊地の言葉に僕は左手の電波時計に目を落とした。
7時を回っていた。
そう言えば太陽も高くなり始めた。
これ以上ここで話し込むのも時間の無駄のような気もする。
「悪かったな、変な話して。ランニング頑張れよ」
「うん、じゃあまた事務所で!」
爽やかに走り去って行った。
菊地の言っていた神社は少し調べておく必要があるかもしれない。
神社には例外なく神様がいるからな。
菊地に影響を及ぼしているのかもしれない。
そういえば10キロ走ってきたと言っていたが帰りはどうするのだろう。
やっぱり自力で引き返すのだろうか。
背筋が寒くなったので考えることを放棄した。










=====









「どうしたんですか阿良々木さん。便意を我慢しているような顔をして」
「その通りなんだろうが、もう少しましな表現をしてくれないか」
アイドルが便意とか言うなよ。
ここに悪徳記者がいたら週刊誌にネタにされるぞ。
その日の昼はファミレスにいた。
目の前には食後のコーヒーと如月千早
何というか、凄くシュールだ。
ランクBアイドルがファミレスにいるなんてなあ。
周囲の人間が気づいてないのがまた…。
ウエイトレスは混んでいるから忙しそうだし隣の女子高生らしいグループは自分たちの話でやたら盛り上がってるし。
灯台もと暗し。
無論如月も変装はしている。
普段では着ないようなラフなジャンパーを羽織り、長い髪は上げてキャップの中にまとめている。
確かにぱっと見た雰囲気はメディアに出ている彼女とはかけ離れている。
ましてやファミレスなんて、自分の料理や相手との会話に夢中になる場だ。
気付かれなくても不思議ではないか。
そして何故彼女が変装してまでファミレスに来ているのかと言うと、僕へのお礼のためだ。
管狐の件を解決してくれたので、何かご飯を奢らせてほしいと言われたのは1週間前。
狐を祓ったのは彼女の力であり、僕は機会を提供したに過ぎない。
そう断ろうとしたのだが、どうしてもという如月の意志と気迫が感じられるほどの真剣な表情に結局は折れてしまった。
意外と頑固なのだ、こいつ。
ファミレスという庶民的な場所を選んだのは僕だ。
あまり高そうなランチやディナーだとしたことに割が合わないし、慣れていない。
ドリンクバーのコーヒーを啜りながら僕は呟くように聞いてみる。
「なあ如月、菊地ってどんな奴だ?」
「菊地って、真ですか?そうですね…いつも明るくて、前向きな子ですよ。
少し考えが足りないところもありますけどくじけないところは尊敬します」
え、あれ、何だこの違和感。
如月がこんなまともなことを言うなんて。
「…如月、ちょっと僕のことを評価してみてくれ」
「ハッ」
年下に鼻で笑われた!
ブームが過ぎ去ったお笑い芸人のギャグを見るような顔で!
「阿良々木さんは道端に落ちていた石ころを見せられて『これを評価しなさい』と言われたらできるんですか?」
「…できない」
「それと同じことです」
「つまり僕の存在は石ころと同等だといいたいのか!?」
「ああすいません、石ころに失礼ですね」
「石の方に謝っちゃうんだ!」
やはりいつも通りだった。
いや、他のみんなの前だったら先程のように謙虚になるんだろう。
嬉しくない特別待遇。
「…で、話を戻しますが、真がどうかしたんですか?」
「え、ああ」
一瞬話の趣旨を忘れていた。
「あいつ、最近身体に変化が起き始めたんだって」
「なるほど、阿良々木さんの萌えポイントは第二次性徴ですか」
「そういうことじゃない!鼻が利くようになって、歯が鋭くなってるんだ」
如月が小さく反応した。
手にしていたカプチーノカップをソーサーに戻す。
「怪異ですか」
「多分な」
如月が目を伏せる。
僕も如月も怪異に出遭い、苦い経験をした。
今だって僕は後遺症が残っているし、如月は自身の責任を問い続けている。
怪異に関わってハッピーエンドを迎えることなど恐らくない。
できることならば誰にもこんな経験はさせたくないのだ。
ましてや、如月は僕よりも菊地との仲が深い。
「まだおおごとにはなってないんだけど、気になってるんだ。
できることなら変化が小さいうちに解決してやりたいんだが」
「…私も手伝います」
思わず頬が緩んでしまった。
僕に対する態度はともかく、彼女が友達思いであることに間違いはない。
何故か如月が睨んできた。
絡むのも面倒なので黙殺する。
「それで、変化が起きたのはどうやら神社に参拝した後だって言うんだ」
「神社なら怪異もはびこってそうですね」
「ああ。それでだな、如月。ここら辺で有名な神社ってどこだ?」
「確か真の住んでいる町にあったはずですよ。全国でも珍しく狼を信仰してるって…」
あ、と如月が言葉を区切る。
僕も気づいた。
優れた嗅覚。
発達した歯。
どちらも犬の大きな特徴だ。
そしてその特徴が突出しているのが、狼。
「原因はそれか…!」
信仰されている狼の神様が、菊地に憑いたのだ。
原因がいち早く分かって幸いだ。
まずは対策を立てなければ。
僕は勢いよく椅子から立ち上がった。
「ありがとう、如月」
昼飯も、情報もだ。
そのまま出口に向かおうとする。
「あ、阿良々木さん」
「何だ?」
「豪快にケチャップソースがついてます」
ここに、と如月は自信の顎を指差す。
とりあえず僕は座り直してナフキンでそれをぬぐい取った。
…格好がつかない。











=====










アパートに帰ってから、フローリングの床に腰を下ろす。
「忍」
影に呼びかけると、中からずるりと立体的な形が現れた。
「呼んだかの、お前様」
金色髪の吸血鬼の登場だ。
体型は10歳前後だけど。
忍はじろじろと僕の周りと部屋を見渡した。
「なんじゃ、ドーナツは持っておらんのか」
「毎回買えないよ。我慢してくれ」
「ふむ、では次に買うときはオールドファッションをひとつ多く買ってもらうとしよう」
勝手に決めるなよ。
通い詰めて店員から変な目で見られるの嫌だぞ。
「考えておくよ。ところで聞きたいことがあるんだが」
「狼の怪異のことであろう?」
聞いていたのか。
少し意外だった。
人間の会話になんて全く興味がないものと思っていた。
僕の考えを見透かしたように忍は続けた。
「小耳に挟んだ程度じゃよ。憑かれた人間のことなどどうでもよい」
「それでいいよ。頼む、怪異のことを教えてくれ」
すると忍は目を閉じて瞑想し出した。
記憶を手繰り寄せる時のいつもの行動だ。
数分の後、目をゆっくり開いた。
「狼の怪異であり、かつ日本で信仰されているとなれば、真神しかおるまい」
相変わらずの記憶力だ。
彼女の脳にはどれだけ膨大な情報が入っているのか知りたいような、知りたくないような。
「かつての日本では狼は畑を荒らす鹿や猪を対峙する益獣とされておったらしい。今は西洋のイメージですっかり悪者じゃがな」
「でも狼信仰なんて初めて聞いたぞ」
「数自体は少ないからの。名のある神社だと三峯神社狛犬が狼じゃな」
「三峯って、あの三大秩父大社のか」
メジャーなところにもあるものなんだな。
それにしても
菊地真に憑いた真神、か。
面白くもなんともない洒落だ。
「そうそう。真神は送り狼と同等であると言われておるな」
「送り狼って…」
どこかで聞いたことがある気がする。
もやもやしたものが浮かんでくるが、はっきりしない。
ああ、こういう時だけ何故思い出せないんだ。
「夜中に山道を歩いてると後ろからついてくる狼、だっけ?」
「ご名答」
よくできました、とばかりに不敵に笑う忍。
こういうところは以前と同じだな。
「まあまだ続きがあるんじゃがな」
「ん?そうだっけ」
「自分で思いだすがよいよ」
そんなことを言われても、頭の隅に引っかかったままなかなか引き出せない。
記憶とは厄介なものだ。
「それでは、わしはもうお暇してもよいかな?」
「ああ、ありがとう」
最後に声を出さずに忍は僕の影に消えていった。
ドライな性格だな。
独りになった部屋で僕は考える。
狼。
哺乳網ネコ科イヌ目イヌ属の動物。
忍の言った通り、悪者や邪悪なイメージが付き纏う。
もし菊地に本格的に真神の影響が出始めたら
僕では制御するのは難しい。
しかし、やらなければいけない気がする。
使命感?甘さ?
分からないが、僕の意志ならば
従わないわけにはいかないだろう。













続く












今回は真がヒロインです!
何となくかっこいいイメージにしたいなと思ったら狼になりました。
かっこよすぎましたかね;
2章もはりきって書いていきますw