ほっとけない恋人未満

百合m@s108式の参加SSです。
CPはいおまこ。
使用したお題などは後書きに書いてます。








迂闊だった。
よりにもよってこんな時期に風邪をひいてしまうなんて。
まあ、インフルエンザじゃないだけマシかも知れない。
「うぐ…頭痛い…」
一応身体は頑丈な方なのだが、昨日の自主レッスンでちょっと無理をしすぎたようだ。
自分の体調管理もできないなんて。
どうしようもないことに後悔しながら、ボクは枕に頭を沈める。


「真〜お友達がお見舞いに来てくれたわよ」
眠りそうで眠れないまどろみを母さんの声がかき消した。
「え…誰?」
学校の友人だろうか。
「髪の毛が長くてね、おでこ出してる子よ」
おでこ。
その一言でピンと来た。
間違いなく伊織だ。
ああまた何か言われるよもう。
ボクの脳内の彼女がぎゃあぎゃあと騒ぎたてる。
「何だか焦ってるみたいだから通したわよ」
「ええっ!?」
自分で出した大声に頭が痛む。
「じゃあ母さんは買い物に行ってくるから」
そう言ってさっさと階段を下りてしまった。
入れ違いに聞こえてきたのは、乱暴に階段を上ってくる音。
これはもう覚悟するしかないかな。


ドバン!と壊れそうな音を立てて部屋のドアが開いた。
「こらー真ぉーー!!!なに風邪なんかひいてんのよっ!!」
伊織の高音がキンキンと頭に響く。
「ちょっと…ボク病人なんだけど」
ふんっと鼻を鳴らす伊織。
「普段バカみたいに元気なくせに、こんな時だけ病人気取り?」
言い方はアレだけど、伊織はいつも的確なところをついてくる。
ボクはぐうの音も出ない。
そりゃ、ボクだって反省してる。
大事なオーディション前に風邪をひいてしまうなんて。
プロデューサーにもデュオの相手の伊織にも本当に申し訳ないと思ってる。
「悪かったよ…」
すると意外にも伊織はあっさり引き下がった。
「まあひいちゃったものは仕方ないわ。プロデューサーが様子見に行けってうるさいから来てみたんだけど、本当に具合悪そうだし」
なるほど、だから普段持ってないスーパーの袋なんて提げてきたのか。
あれにはきっと食べ物とかが入ってるんだろう。
「それはそうと真、あんた顔赤いわよ」
「風邪だから当たり前じゃん」
伊織がずいっと顔を寄せて来た。
「ちょっとおでこ出して」
「へ?」
「熱測るのよ」
そのままどんどん伊織が近づいてくる。
近い近い伊織近いよ。
意味もなく緊張してしまう。
おでことおでこを合わせた。
近すぎて伊織の表情が見えない。
2秒ほどで離れた。
「熱いわね」
当たり前だ。
と言うと睨まれそうなので黙っておく。
「…ん?」
「何よ」
「いや別に」
心なしか伊織の耳が赤いと思ったのだが、気のせいだろうか。



「…で、何しに来たの?」
「何よその言い方。アイス買ってきたのにいらないの?」
「いるいる、ごめんなさい」
丁度小腹が空いていたのだ。
スーパーの袋から2個のカップアイスを取り出し、ひとつをボクに渡した。
「ありがとう。でも何でアイス?」
「ママから聞いたの。アイスはカロリー高いし食べやすいし、風邪ひいた時にはいいんだって」
そう言われると確かに理に叶っている。
溶けているかもしれないと思ったが大丈夫だったようだ。
伊織も喋らずに黙々とアイスを食べる。


「ごちそうさま。ありがと」
「ん」
ゴミになったカップを袋にまとめる。
「風邪、いつ治りそうなの?」
「う〜ん、明日は無理かも…明後日くらいかな」
すると伊織は眉間に皺を寄せた。
「つまり私は明日も一人でレッスンしなきゃいけないってことね」
あ、始まった。
伊織ったらこういうどうしようもないことで不機嫌になるんだから。
苦笑して謝る。
「ごめん」
「…別に」
ボクの予想に反して、伊織は言葉を濁した。
てっきり5か国語くらいで罵られるかと思ったんだけど。
「あんたがいないと、その…そわそわするっていうか、調子狂うっていうか…」
いつもの調子じゃない。
でも何だか可愛い。
こんな表情の伊織を見るのは新鮮だ。
「寂しい?」
「!」
ちょっと意地悪してやろうと思ってそう言うと、彼女は耳まで赤くなった。
ああ、可愛いなあ。
ボクはちょっと前かがみになって身体を伊織に近付ける。
そして、おでこにキスをした。
「な、ちょ、ちょっと真…」
「可愛いよ伊織」
笑って言うと、次の瞬間突き飛ばされた。
目の前に星が飛んだ。
病人なのに容赦なしだ。
「も、もう知らないわよ!バカっ!!」
伊織はそう言い捨てて飛び出してしまった。
本当のこと言っただけなのにな。
まあいいや。
明後日になったらまた会えるんだから。






2日後、すっかり元気になったボクは事務所に顔を出した。
プロデューサーに挨拶をしてその隣にいる伊織を見る。
とびっきりの笑顔を見せると、また伊織は顔をトマトみたいに赤くした。
プロデューサーは不思議がってたけど、そんなの彼の知ったことじゃない。












使用お題
14)キス
86)風邪
96)アイス
104)ごめんなさい




百合m@s108式という偉大な企画に提供するのに、あえてマイナーなCPを選んでしまいました。。
いおまこいいと思うんですけどね。
需要はないわけではない…と信じます。
以前寝込んだ時に浮かんだ妄想をそのまま文にした感じです。
友達以上だけど好きとは認めたくない伊織。
そんなことを考えてましたw
きっと他の皆さんなら上手く表現されるんでしょうね。
作品を読むのが楽しみです。