友達とケーキと秋の午後

ちょっと珍しいかもしれない、春香さんと真の話です。
ゆる〜い友情モノです。








パシッと小気味よい音が事務所に響く。
「はいっボクの勝ち!」
「あ〜負けちゃった〜」
5枚のカードを叩きつけたのは真。
その顔にはありありと会心の勝利だ、と書いてある。
向かいに座っている春香は対照的に情けなく眉を下げている。
力尽きたようにソファに沈み込んだ。
実はこの2人、おやつのケーキをかけてポーカーをしていたのだ。
テーブルに広げられたトランプは真がフルハウス、春香がツーペア。
春香はなおも10枚のカードを恨めしそうに眺めていた。



「じゃあボクはこのショートケーキもらうよ」
真が意気揚々とケーキの箱を持ち上げる。
春香が恨みをこめて軽く睨んだが、すぐに諦めたのか首肯した。
「あーあ。せっかく小鳥さんが買ってきてくれたのにな」
ぶつぶつと呟く春香に真は苦笑する。
「また買ってきてもらえばいいじゃん」
「真は勝ったからそんなこと言えるんだよー」
まだ不満げな表情で真を見つめる春香。
そんな表情でさえ可愛く見えるのだから得だな、と真は密かに思った。


道を行けば誰もが目に留める美少女の彼女だが、本当のところは諦めが悪いというか、負けず嫌いなところがあるのだ。
だからこそこの厳しい世界で生き残ってきたのだろうが。
そしてそれは仕事以外でも時々垣間見ることができる。
亜美や真美にゲームで負けては再戦を申し込み、千早に歌唱力勝負で敗北してはその度にもう一回と懇願する。
しかし他の人間と違うところは、春香は姑息な手は一切使わず、なおかつ負けたことをきちんと認めるところだ。
周囲もそれを分かっているから、呆れられることはあってもうっとおしがられることはない。


真がケーキを食べている間中、春香はずっと目を逸らしていた。
おそらく見ているとお腹が空いてくるからだろう。
ふとケーキを割いていたフォークを止める。
「ねえ春香、ちょっと食べる?」
真の言葉にくるりと顔を向ける。
「いいの?」
うん、と真が頷く。
その瞬間、ぱっと春香の顔が輝いた。
「やった!ありがとう真〜」
くるくると変わる表情を見ていると飽きない。
「ちょっとだけだからね」
うんうんと何度も頷きながら口を開ける。
「ボクが食べさせるの?」
「うん。だって自分で取ったらついつい手が伸びちゃうと思うし」
なるほど、一理ある。
春香はお菓子作りが趣味で、食べるのもそれと同じくらい好きなのだ。
誰かが止めないと際限なく食べ続けるくらい。
「分かったよ。はい、あーん」
「あーん」
大きく開けた春香の口にフォークを運んでいく。
中ほどまで進んだところで閉じられた。
「美味しい〜」
春香の目がとろんと蕩けそうになる。
どんな表情も可愛い。
彼女に熱狂的なファンが多い理由が分かる。
「はい終わり」
真が最後の一口を平らげると、名残惜しそうに見つめた。


「今度は負けないからね。私がショートケーキ食べるんだから」
「ふふん、次もボクが勝つさ」




柔らかい秋の日が射す、
平和な午後のことでした。









春香さんをあまり書いていないと思ったので真とのある日の風景を書いてみました。
お仕事はホラあれですよ、今は自由時間なんですよ。
春香さんって典型的な女の子ですけど、アイドル目指しているからにはそれなりに競争心は強いのかなって思います。
でも仲間のことは本当に大切に思っている優しい子です。
閣下も好きですが白い春香さんも忘れちゃ駄目ですよね。