私の全てをあなたへ

久し振りに百合を書いてみます。
ちはまこでウォーミングアップを図りました。







真が誰かと仲良くしていたりすると、不機嫌になる自分に気づいた。
分かっていても受け入れがたいものだ。


「ねえ雪歩。ここの歌詞なんだけどさ…」
「ああ、そうだね。もう少し柔らかく歌った方がいいかも」
私の視線の隅で、真と萩原さんが話している。
どうやら新譜の打ち合わせのようだ。
微笑ましいな、と思う。
それと同時に
心にうずまく極彩色の感情を感じる。
分かっている。
これは『嫉妬』だ。
萩原さんは真と仲良く話していて、笑いあっている。
そのことがこの感情を生んでいるのだと。


私と真は付き合っているけども、ユニットは別々だ。
真は萩原さんと、私はあずささんと組んでいる。
前者の2人のバランスは歌、容姿共にとても良く、多くのファンを獲得している。
私達は私達で歌唱力を売りに広い世代のファンを狙っている。
ユニットが別となると、プライベートに会うのも調整しなくてはならない。
正直、私よりも萩原さんと一緒にいる時間の方が多い。
不安はない。
真は浮気はしないと約束してくれたし、私も彼女以外を好きになる気はない。
それでも、どうしても、気になってしまうのだ。

真が私以外の人と仲良く話している。
あの笑顔を見せている。
私は何て醜いのだろう。
真が誰と話したって自由ではないか。
束縛する権利なんて微塵もないのに。




「千早ちゃん、最近ため息多いわね」
そう言われて思わず顔を上げた。
あずささんの心配そうな顔があった。
「そうですか?」
笑って見せたけど、あずささんの表情は変わらない。
諦めて少し苦笑する。
そうだ、この人には作り笑いは通用しないんだった。
ふとあずささんの唇が動いた。
「…真ちゃんのこと?」
「!」
ビックリしてとっさに言葉が出なかった。
どうして、と目で尋ねてみる。
「ため息つくときね、いつも真ちゃんのこと目で追ってるのよ」
迂闊だった。
気を付けているつもりなのに、無意識に真を見ていたのだ。
あずささんはなおも語りかけてくる。
「何かあったの?」
「…いえ」
一応あずささんには真との関係を話している。
でもこんなことを他人に相談するのは恥ずかしいというか…気が引けた。
嫉妬深い女だと思われるかもしれない。
「よかったら話してみて。助けにはならないかもしれないけど、気は楽になると思うから」
あずささんの言葉を聞いて、何だか安心した。
飾らない等身大の言葉だからだろうか。
話してみよう、そう決心した。



「そう。そういうことだったの」
優しげな口調であずささんは呟いた。
話したあと、後悔はないが少し後ろめたさが残った。
「…やっぱり、ダメですよね」
しかし帰ってきた返事は意外なものだった。
「そんなことはないわ」
「で、でも…」
私は真を気持ちで縛ろうとしている。
そんな自分が嫌なのだ。
「あのね千早ちゃん。そう思うのはとっても自然なことなのよ」
あずささんは微笑んでゆっくりと言った。
「だってそれだけ真ちゃんを好きだって証拠だもの。好きじゃなかったら、相手が誰と一緒にいても何も感じないでしょう?」
「あ…」
「だからその感情は否定しなくていいの。自分の中の想いだから。勿論、度が過ぎない程度に留めなくちゃいけないけれど」
あずささんの考え方は、とっても新鮮だった。
私は嫉妬というものは抱いてはいけない感情だと思っていた。
でもそれは早とちりだったのだ。
もし悪い部分だとしても、それは紛れもない私自身だから。
真を愛しているという、証拠…。
「ありがとうございます」
あずささんに深くお辞儀をした。
いくら感謝してもしたりない。
彼女は、どういたしましてと笑っていた。




「あ、千早、お疲れー」
「お疲れ様」
その夜。
仕事が終わったのでデジタルオーディオでクラシックを聞いていると、真がロッカールームから出てきた。
「今日はどうだった?」
「へへっ営業大成功だったよ!お客さん凄く盛り上がってくれてさ」
「良かったわね」
他愛のない会話を交わす。
どうしてだろう、3日かそこらぶりなのに凄く懐かしく思う。
不意に、真が黙り込んだ。
「真?どうしたの?」
「ごめんね、千早」
いきなり謝られて私は面喰らった。
私は別に真に不快なことは何もされていない。
「最近お互い忙しくてゆっくり会えないでしょ。千早もちょっと元気なさそうだったし、もしかしたら寂しい思いさせてたのかも…って」
申し訳なさそうに眉を下げて、私の顔を覗き込んでくる。
私は真と裏腹にホッとしていた。
「(真、ちゃんと私のこと見ていてくれたのね…)」
目を見つめ返す。
漆黒の瞳に吸い込まれそうになる。
いや、もう吸い込まれているのだ。
愛してやまない真自身に。
「真」
「なあに」
優しく甘い声で返事をしてくれる。
「名前、呼んで。好きって言って」
緊張していた真の頬がふっと緩む。
焦らすようにスローで真の口が動く。
「千早、好き。大好き」
彼女の手が髪に触れる。


その瞬間は
キスしなくたって、抱きしめ合わなくったって、幸せだった。











ご無沙汰していたちはまこ話です。
正確に言うとちはまこ+あずささんかな?
何故ちはまこなのかは深い理由はありません。
インスピレーションなのです。
普段よりも甘さ多いですね。
嫉妬したり甘えたりする千早が書きたかっただけだったりw