真がネコになった日⑥

これでこのシリーズは終わりになります。
長いような短いような…。








真にジャージに着換えさせた後、一緒に事務所に向かった。
留守番させるか迷ったのだが今の真をひとりにさせるのは不安だった。
ネコ耳は帽子をかぶせてカモフラージュした。
しっぽは何故かどんなズボンやスカートもすりぬけて主張するので、仕方ないからそのままだ。



「おはようございます〜」
「あ、おはようございますあずささん」
一番に挨拶したのはデスクに向かっていた小鳥。
「おはようございますっ」
「うっう〜!あずささん、おはようございます!!」
続いて春香とやよいが元気よく返す。
あずさも笑顔で応える。
春香が真に気づいて目をやる。
「あれっ真も連れて来たんですね」
「ええ、留守番させておくのもなんだから」
「にゃお〜」
挨拶しているのか威嚇しているのか、真は大きく口を開いて鳴いた。
それを見て思わず笑う春香。
頭を撫でてやると、心地よさそうに目を閉じた。
「あ!そうだ、真、私クッキー焼いてみたんだけど食べる?」
「にゃ!にゃあにゃ」
どうやら食べたそうにしていると解釈した春香は、
「じゃ、ちょっと取ってくるからまっててね」
と残して隣の部屋に行ってしまった。
あずさは思わず口を開いた。
「春香ちゃん、真ちゃんのことを気遣ってくれているのね…」
心遣いが嬉しくて、つい真の方を見てしまう。
やよいが手を伸ばして頷く。
「そうだと思いますっ。私も真さんのこと心配ですし、皆さんもきっとそうですよ!」
「ふふっ。ありがとうね、やよいちゃん」
精一杯の説明に顔が綻ぶ。
やっぱり自分一人で悩んじゃダメなんだと再認識した。




数分後、包みを持った春香が帰ってきた。
その瞬間真のネコ耳がぴょこんと立った。
「お待たせ〜真」
よっぽど期待していたのか、包みの中を覗こうとする。
何だか目までキラキラしているような気が。
「えへへ、じゃあ〜…って、あ!?」
「「あ!!」」
春香とあずさとやよいの声が重なった。
春香の足が床からコンセントに引っかかったのだ。
目の前にはびっくりして目が点状態の真が。
「ううううわああああああ!?」


どっしーん!!


「うう…ご、ごめんね真…」
「いたあ…何なの一体…」
「あ〜痛かった!?ホントにごめ…え?」
その場にいた全員が、固まった。
「え?な、何?皆ボクのことジロジロ見て…」
真が言葉を喋っている。
ネコ耳やしっぽがいつの間にか消えている。
ということは


「「「元に戻ったあああああああ!!!」」」
三人の声が重なった。
全く無防備だった真の鼓膜を刺激する。
「え!?戻ったって、真が!?」
「真クン戻ったの?」
「なになに→?どうなったの??」
三人の声(叫び)を聞きつけたのか、ドアが開き次々にアイドル達が顔を出した。
群がってくる仲間たちに当の本人は目を白黒させている。
「ちょ、ちょっと何なんだよ!何の騒ぎ?」
その様子を見て、律子は疑問を覚えた。
「…真、あんたまさか覚えてないの?」
「え?いや、ボクはあずささんを待って仮眠室にいたら、うとうとしちゃって…で、気づいたら何か頭痛くて…皆何か訳わからないこと言ってるし…」
どうやら、ネコ化していた時の記憶は全くないらしい。
ややこしいのか好都合なのか…。
律子は盛大にため息をついた。
混乱している真を見てあずさがぽつりと呟いた。
「どうして真ちゃんは元に戻ったのでしょう〜?」
すると小鳥が一歩進み出て、春香に尋ねた。
「ねえ春香ちゃん、春香ちゃんが倒れて真ちゃんを巻き添えにしちゃったのよね?」
「あ、はい…ごめんね真」
「ああいいよ別に」
ふむ、と小鳥は数瞬考え、結論を口にした。
「つまり、春香ちゃんに倒されて頭を打った衝撃で元に戻った…ということになるけど」
「何て古典的な…」
千早が納得いかなさそうに言った。
しかし状況を考えるとそれが一番自然なのだ。
「ま→ま→結果的には良かったんじゃん?」
亜美と真美が口を揃える。
「あんた達は面白がってただけでしょうが!」
「わわっりっちゃんが怒った!」



未だ色々と言いあっているアイドル達を見て、あずさの手を引っ張った。
「ねえあずささん、本当に何があったんですか?」
疑問と混乱とちょっぴりの好奇心を混じらせて。
瞳はいつもの漆黒の光が宿っていた。
ネコの真も悪くないけど、やっぱりこちらの方が可愛いし、ホッとする。
安心させるために、にっこりと笑顔を見せた。
「ん〜ん、何でもないのよ」




いつも騒がしい765プロの、不思議な2日間でした。












おまけ
真「ええ!?ボクがネコになってた!?」
あ「そうよ〜本当にビックリしたわ〜」
真「でもそんなこと言われても…信じられませんよ」
小「確かにそうよね…写真でも撮っておけばよかったかもね」
律「写真じゃないけど、画像ならここにあるわよ?」
全「「え?」」
律「何かに役立つかと思ってデジカメでね。今持ってるわよ」
美「さすが律子、さん。抜け目ないの」
真「ちょ、ちょっと見せてよ」
律「はい」
真「どれど……っ!?」
あ「あらあら〜?」
真「う、う、嘘だあああああっ!!」
亜「あれ〜?まこちん猛ダッシュしてっちゃったよ?」
律「よっぽどショックだったのね。あれは多分トラウマになるわ」
小「…と、とりあえずこの画像は門外不出の品にするということで…」



その後あずさが探しに行くと、真は外で重〜いオーラをまとって体育座りしていたとか…。