真がネコになった日④

もう『なった日』ではなくなってるんですが、まあそれはそれです。
まだまだ続きます。









近くに誰かの気配を感じた。
目を開けてゆくと、その輪郭がはっきりとしていく。
「にゃん」
間近に真の顔を見た。
「あ…真ちゃん」
表情はないがひらひらと耳をしっぽを揺らす。
「おはよう〜。ごめんね、ずっと待ってたの?」
相変わらず真は何も言わない。
改めて真の瞳を見て、曇りが全くないことが分かる。
「すぐに朝ごはん作るわね〜」
真の頭を撫でてから寝室を出る。
真もポリポリと頭を掻きながら、あずさの後をついていった。




「あら、真ちゃんついてきたの?」
エプロンをつけて台所に立ったあずさは、真がついてきていたのに気付いた。
あずさの手元にある包丁やまな板をじっと珍しそうに見ている。
「包丁を使うから危ないわ。そっちのソファで待っていられるかしら?」
リビングの二人掛けのソファを指差した。
こくっと小さく頷く。
小走りのようなテンポでソファに向かっていき勢いよく座る。
あずさはそれを見届けてから、張り切って朝食作りに取り掛かった。


今朝のメニューはサラダ、ベーコンエッグ、冷製スープ、それにトーストだ。
真の好みが分からないので一応スタンダードなものにしてみた。
「はい、いただきま〜す」
顔の前で手を合わせる。
勿論、真はそれを見ているだけ。
あずさが箸を持って食べ出しても、真は彼女と目の前の料理を見比べている。
「あ、真ちゃん自分じゃ食べられないのね」
そうだ、今の真はネコなので箸を使えない。
あずさは自分の食事を中断し向かいの席の隣に立つ。
「はいあ〜ん」
箸でベーコンエッグを取って差し出した。
あずさが口を開くと真も真似をする。
慎重に口に卵の黄身を運ぶ。
口を閉じると真も同じく口を閉じた。
「かみかみしてね〜」
促されるままに真はもくもくと歯を上下に動かした。
保育士になった気分だ。
真の表情からは美味しいと思っているかどうか分からない。
でも食べることを止めないので不味くはないと思う。


無事に完食してくれた。
二人分の食器を片づけて流しのシンクに置く。
洗うのは後だ。
ソファに座っている真の隣に腰をおろす。
「ふふ、朝ごはん美味しかった?」
隣からの反応は特にない。
ただ
「にゃあ」
と欠伸のような声が漏れる。
頭を優しく撫でる。
少し胸が痛かった。
いつもの真なら『はいっ凄く美味しかったです!』と笑顔で言ってくれる。
表情も見ていて飽きないほど良く変わる。
これはこれで可愛いのだが、不安になる。
これからどうしよう、と思う。
もし元に戻らなかったら?
言いようのない不安に駆られる。
気づいたら、真の身体を抱きしめていた。
「にゃ?にゃあにゃん」
慌てるように体をよじる真。


自分の心の隅に隙間ができたようで。
それが真の存在であり、不安の原因だということを理解している。
でもそれを埋める術が分からない。
真も抵抗を止めてあずさの腕の中でじっとしていた。
ただ真のぬくもりを感じていた。




「大丈夫よ、真ちゃん…きっと、きっと」
自分に言い聞かせるようにそう言った。











ちょっと進展ありましたね。
あずささんはネコの真を可愛いと思いつつも、やっぱり心配。
今の真には関係のないことですが。
でも不安は伝染したようです。
それが元に戻るカギになる…かも?
実は、次回か次々回くらいでこのシリーズは終わりです。
セオリー通り真は元に戻るんですが、どうやって戻そう…;
さて、次は真誕生日記念のSSを書きますよ!
なので次回は29日以降になります。