真がネコになった日③

シリーズ化しそうです。
どうか最後までお付き合いください。
それと、今回は後書きないです。









真の寝顔をじっと見ていたら、あずさはあることを思い出した。
そういえばまだ真の身体を洗っていない。
上着とシャツとズボンは脱がして洗濯機にかけているが下着はそのままだし風呂にも入れていない。
慌てて考えていなかったが、風邪をひくかもしれない。
真が目を覚ましたらまず風呂に入れなければ。


あずさが眠気でうとうとし始めた頃。
真の長いまつ毛が揺れた。
あずさは我に返って瞼をこすった。
再び真の瞳が開けられる。
まどろんでいる真に向かって笑顔で呼びかける。
「おはよう」
おはようと言うには変な時間だが。
言葉が分かるのか、真は
「…にゃ」
と短く答えた。
「ねえ真ちゃん、寒くない?」
良く分からないのか小首を傾げる仕草を見せた。
しかし
「くしゅっ」
小さくくしゃみが飛び出した。
風邪は引いてないまでも多少冷えているらしい。
「ほら、風邪引いちゃうしお風呂に入りましょう?」
「にゃん?」
ポンポンとあやすように頭を叩く。
まだ思考がはっきりしていないらしい真は不思議そうな表情だった。





昔ネコを飼っていた友人に「ネコって水が嫌いなの。だから綺麗にするのにひと苦労なのよ」と聞いたことがある。
だが真には当てはまらないようだ。
「(まあ、元々は人間だったわけだし…)」
真の髪を洗いながらそんなことを思う。
イスにちょこんと座って大人しく洗髪を受けている。
前の鏡越しに時折気持ち良さそうに目を細めるくらいだ。
「…にゅっ」
不意に頭を下げて目を押さえてしまった。
「あっ目にシャンプー入っちゃった?」
「んむ〜…」
目に涙を浮かべているところを見ると間違いないようだ。
「ごめんなさいね、すぐに洗い流すから、こっち向いて?」
真はすぐにくるっとあずさの方を向いた。
潤んだ瞳を見てちょっとだけドキッとする。
「は〜い、じゃあ上向いてね〜」
シャワーの栓を開いて真の頭上からかける。
目に湯を入れてからぱちぱちと数回瞬きする。
「もう大丈夫かしら?」
こくこくと頭を上下に振る真。
「良かったわ〜。じゃあついでにシャンプー流しちゃうわね」
また前に向き直らせる。
意外ときめ細かい髪を濡らしながら、真の可愛さに心を躍らせていた。






風呂から上がったらまた眠ってしまった。
服はタンスの中にあった予備の寝巻きと下着を着せた。
サイズが少し大きいが問題はないと思う。


すうすう、すうすう
規則正しい寝息を立てている真を見るとつい顔が綻んでしまう。
日付が変わろうとする時間だが、お腹は空いていないだろうか。
試しに頬を突いてみたが反応はない。
完全な眠りに入ってしまったようだ。
「(朝ごはんはしっかり作っておかないと)」
そう思いつつ、あずさは毛布を二枚持ってきて、挟まれる形で入る。
今の真を独り(?)にさせておくのは心配だ。
「(私がしっかりしないと…)」
責任感と愛おしさと少しの不安を抱きつつも、あずさは眠気に身をゆだねた。